もしもトウカが剣士さんじゃなかったら
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跪く。使い慣れない武器を持つのも、あまり出ない外に行くのも怖くて仕方ない。
十何年も前の出来事とはいえ、殺されかけるという出来事がすっかりトラウマになった私。義父上や義母上の期待に応えたいのに、言うことを聞いてくれなかった身体。怯えるようにずっと本を読みあさり、せめて使えれば役に立つかと思った魔法は使えず、それどころか耐性がマイナスになっているとかいう意味の分からない状況で……。
あぁ、なんて私は使えないんだろう。今の私は陛下の盾に何回かなれたらいいところで……。無事だった近衛兵のエルトにすら、私は恐怖心を抱いている。
「……魔物だ」
びくびくしながら歩いていれば、不幸にも現れた魔物が前世の半分ぐらいしかない視界に入る。恐怖心が一気にこみ上げてきて、吐き気すら感じる。でも逃げれないし……私は逃げてはいけない。こんな役立たずでも「モノトリア」である限り。
剣を引き抜いて魔物に向け、震える足を無理やり押さえつけて向かっていくしかないんだ。
エルトが兵士らしく模範的な、しかし力強い攻撃を魔物に浴びせる。しかしそいつ……恐らくスライム……は可愛らしいフォルムの癖にそれに耐えきって、標的を私に向けたのだ。喉が締まったような感覚がして、目眩やら吐き気やらが一気に高ぶる。だけど、私は逃げてはいけないのだ。
覚悟を決め、攻撃される前に攻撃するしかなかった。体が勝手に動くような良く分からない感覚のもと、慣れない剣で斬りあげてみればスライムをなんとか倒すことができた。
−−ドクリ。
何かが私の胸のうちで疼く。その時の私は戦いに勝利できた安堵感でいっぱいで、何も気にしちゃいなかったのだ。私の浅ましい心臓は、私の想いと相反して……戦いを求めていたなんて。
・・・・
やっとのことでベッドで寝れる。
陛下の計らいで宿に泊まれることになり、私はふらふらとベッドに近づくとぼすりと倒れた。のろのろと体を起こし、靴を脱いで剣を背中からおろし、習った通りの模範的なやり方で剣の手入れをするともう私の目蓋はくっつきそうだった。
剣は、私をおかしくする。
剣は人を守れるものかもしれない。剣がなければ今日私は殺されていたかもしれない。でも、刃がついた、凶器だ。人の命を奪えるものだ。私みたいな非力な人間でさえ魔物の命を奪える恐ろしいものだ。
「怖い、なぁ……」
弱音が口ついて出る。自室に比べれば遥かに狭いその部屋では言葉が良く響いてしまって、思わず耳を塞いだ。誰かに私の弱さを指摘されたかのように、嘲笑われたように、勝手に思ってしまって。
体を縮めて頭を抱えて、なるべく小さくなる。矮小な私に胸を張る資格なんてないのだから。
怖い。死にたくない。戦いたくなんか、ない……はず
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