第一部
第三章
第二十三話『遺譲』
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、理想と現実のギャップに憤ったのはよっぽど自分の方だという自負もあった。翠としても好き好んだ訳ではない現実的な提案を、詠はマミを引き合いに理想を前面に押し出して否定して来たのだ。何だか自分の方が悪者にされたようで、あのほむらに殴られ唯が消失した日を思い出し、不愉快で受け入れ難かった。
翠 「フフッ、でもその話からするとマミさんって結局、仲間を持ったから死んでしまったようなものなんじゃないですか。」
そんな事は翠も言いたくはなかった。言った自分に少し驚いているくらいだ。マミに対する尊敬の念ならこの中で一番だとも思っていた。でも話の流れからついむきになり口走ってしまっていた。
詠 「翠、あなた…」
詠が愕然としたように言うと、その言い方に翠は更に怒りを感じた。翠にしてみれば詠がそう自分に言わせているのだ。それを詠がこれ見よがしに驚いて見せるのは翠からすると偽善で卑怯な事であった。
だがその一方で、直もそのやり取りを聞きながら徐々に苛立ちを募らせていた。元々翠に対して反感を持っていたし、何より自分が敬愛する詠の正論に独り善がりな意見で抗っているように見えて許せなかった。話の蚊帳の外に置かれていたり、自分の力の無さに不満だったりもしていた。問題は直前の直の経験で、彼女は思い切った強気の打開策で成功体験をしてしまっていた事だった。
直 「ちょっとアンタさあ…」
突然として直が歩み出てその右手を伸ばし、翠の胸倉を掴んで引き寄せ気味に言った。詠と詩織に緊張が走った。
直 「そりゃアンタの方が古株でリーダーだってのは聞いてるけどさ、詠さんは年長者なんだしもっと敬意を払うべきなんじゃないの。」
翠は表情一つ変えずに胸倉を掴んだ直の手とそれに続くその顔を何度か往復させて見てから、おもむろに直のその右手を自分の右手で掴み返し、無言で引き剥がした。魔法少女はその魔力を自らの体にチャージし強化できる。驚異的ジャンプ力や致死的衝撃にも耐えうるのはそのおかげだ。そして当然ながらその魔力が強ければ強い程その力も増す。よって魔法少女の腕力は筋力ではなく魔力に比例する。だからその腕力は如実にその魔法少女の実力を表す。
直 「何よ…」
直は翠の手を振り解こうとしたが、翠の手は万力のように力強く微動だにしなかった。そして直が左手も使って全力で翠の手から逃れようともがき出すと、翠はパッとその手を放した。直はその反動でよろけて後退りし詠に受け支えられた。たったそれだけで直は翠の圧倒的実力を思い知り、すっかり心が折れて腰砕けになってしまった。恐怖に顔を引きつらせる三人を目に映しながら、翠はぼうっと考えていた。
(この三人なんて一瞬で葬れる…)
その時、現実世界の高台にある公園のブランコに座っている亮が顔を上げた。
亮 「おや、これは…」
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