第一部
第二章
第十九話『この世界を守って』
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す…どうか御慈悲を…翠様…お願い…」
もうほむらは立っているのもやっとの事で、翠に向けた弓もあらぬ方向を向いてしまっていた。だがそんなほむらの状態とは無関係に、翠は身動き一つせずにまどかに狙いを定め続けていた。
ほむら「誰か…誰か、助けて…」
ほむらは虚しくも助けを求めた。もうそれしか出来る事が無かったからだ。既にして、まどかのソウルジェムの輝きは殆ど見えなくなっていた。
苦しむまどかが最期の声を上げる。
まどか「お願い翠ちゃん!私とほむらちゃんが紡いだこの世界を守って!」
翠 「!」
翠の放った矢は、まどかのソウルジェムを正確に貫いた。胸に矢を受けたまどかの影が舞い、その前を砕け散ったソウルジェムの破片がキラキラと宙に輝いた。翠はそれを酷く美しいと感じた。
ほむら「ふしゃるわーっ!」
それは声と言うにはあまりにおぞましく、あたかもほむらの心が破ける音が口から漏れ出したようだった。その叫びと共に放たれたほむらの矢は、翠の右のおさげを留めているリボンごとちぎり切って虚空の彼方へと消えて行った。それは外れたのか外したのか、当のほむらにも分からなかった。
翠は天を仰ぐように上を向くと、僅かにハァーっと息を吐いた。雨粒が顔に当たって、それが少し心地よかった。
ほむら「あー…うう…まど…か…あー…」
ほむらは丸く小さく屈み込んで、止まりかけの心臓のようにビクビクと震えて泣いていた。時々咽びながら、いつまでもおいおいと泣き続けた。力無く投げ出されたまどかの腕の下の水溜まりが赤く染まって行く。
それらを見ていたキュゥべえは尻尾をくるりと一度回すと、もう見世物は終わりなのかとばかりにその場を去って行った。
?
不気味な低い雲が強い風に押し流される空の下、橋の歩道の真ん中で二人の少女が相対していた。その二人の間の欄干の上にはキュゥべえがいた。その二人、ほむらと翠はお互いに目を合わせずに暫く風に吹かれていた。やがてほむらが強風になびく前髪を掻き上げ目を伏せて言った。
ほむら「髪、ごめんなさいね。」
翠 「いえ…」
左だけのサイドテールになった翠の髪は、今までよりもやや後ろ上方から少し跳ね上がるように突き出ていた。翠は向きを変え、橋の欄干に両手を載せて川面を見詰めた。
ほむら「あなたが正しいのは分かっているの、感謝する気持ちだって無い訳じゃないのよ。でも…まどかを殺したあなたとは、とても一緒にはいられないの…」
翠は何も答えず、相変わらず風に吹かれながら川面を見詰めていた。
ほむら「それじゃあね…」
ほむらが別れを告げようとすると、翠は川面を見詰めたまま唐突に言った。
翠 「響亮です。」
ほむら「え?」
翠 「陽子にまどかさんをこの世界に転送するように言った者、陽子は男の子と言ってま
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