第一部
第一章
第三話『私達はもうお友達』
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のベンチに座っていた。いつそこに来て、いつそこに座ったのかの記憶は無かった。近くの街灯の光が斜めに差し込み、翠の左手に影を作っていた。その暗がりから声がする。
ほむら「もう大丈夫でしょ、行きましょう。」
マミ 「そうかしら、ちょっと心配なんだけど。」
うすぼんやりとした意識の中で、翠はその声を聴いていた。その言葉の意味も、誰が発しているのかも、今の翠には理解出来なかった。
? 「彼女には資格があるからね。」
翠の前方に、白いイタチのような生き物がちょこんと座っているのが、その虚ろな瞳に映った。
ほむら「止めなさい、キュゥべえ。」
マミ 「ほむらぁ、この子の家知ってる?」
ほむら「私が知ってる訳ないでしょ。見た事も無い子なのだから。」
翠はほむらの「見た事も無い」と言う言葉に弾かれた。
翠 「そんな!」
反射的に翠が立ち上がって口走ると、ほむらとマミは驚いて翠の方に目を向けた。
翠 「あの、私…」
しかし、翠はすぐに口籠もった。自分にとっては特別でも、他人にとっては取るに足りないという事は多々ある事。今、正気に返った翠にはその事がすぐに分かってしまったのだ。急に沈黙し、がっくりと項垂れる翠。そんな翠を見ると、マミは少し頷くように首を動かし、翠に近付き優しく声を掛けた。
マミ 「一緒に私の部屋に来て。そこでお茶でもしましょう。」
そしてマミは翠の手を取って、それを引いた。引かれるままに翠は歩き出した。マミはその光景を傍観しているほむらにも言った。
マミ 「ほら、ほむらも!」
そう言われると、ほむらも仕方なさそうにそれに従った。
?
マミの住んでいるという所は翠の知っている建物だった。そのコンシェルジュ付きの超高級タワーマンションは立地条件の良さも相まって、そこいら辺の一戸建てなどよりも近隣住民達の憧れと羨望の的であった。翠が子供の頃からこの建物の中はどうなっているのだろうかと見上げる度に思い、そして一生涯それを知る事は無いのだろうと諦めていた場所でもあった。その高層階の一角のコンドミニアムがマミの言う部屋≠セった。翠は再び夢の中にいるような気分になった。言われるままに通された部屋はガラス壁から町の夜景が見え、趣味の良い調度品が広々とした空間に程よく配置されていた。翠にとってそれは正しく理想であった。
翠が三角形のちょっと低めのクリスタルテーブルの一辺に座らされると、その別の一辺にほむらが座っていた。翠は今、自分があのほむらと同じ場所にいる事を不思議に思ったが、それ以上に嬉しさを感じていた。まるで学校の席替えで好きな人と隣り合わせになったような、そんな幸福感が沸いて急に愉快な気持ちになって来た。そんな翠は自分では気付けないまま、ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながらほむらを見詰めていた。当
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