第一部
第一章
第三話『私達はもうお友達』
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はママが引き取ったからママの実家のある九州に行くことになったの。だからすぐにあなたも準備なさい。」
翠 「そんな…嫌だよ、転校とかしたくないし…」
母親 「仕方がないでしょ、もうそう決まったんだから。わがまま言わないで。」
翠 「わがままなのはどっちだよ!」
そう叫んで、翠は自室に飛び込んだ。
?
陽子が朝起きると、陽子の両親はもういなかった。
二人とも早朝から金策に出たのだ。陽子は台所を物色してみたものの、食べ物は御釜に冷御飯が少し残っているだけだった。陽子はその御飯をラップに包むと、鞄に押し込んで学校に向かった。
そんな陽子だったが、登校の途中で翠を見つけると、翠に向かって努めて明るく挨拶をした。
陽子 「おっはよー、翠ぃ!」
翠 「うん、陽子。お早う。」
翠は陽子とは対照的に、努めて暗くしているように答えた。
陽子 「どうしたの、何かあったの?」
翠 「うん、それがね…私の両親の離婚が正式に決まってね…」
陽子 「そう…」
翠 「それでもうすぐ私、ママに連れられて九州の方に転校する事になっちゃうの…」
陽子 「…。」
陽子は何かを言おうとしたようだが、結局何も言わなかった。二人の間にまた沈黙が漂った。
お昼の時間になると、気を取り直したように翠が陽子に話し掛けた。
翠 「陽子…もしよかったら一緒にお昼食べない?」
しかし陽子は何か思い詰めたような顔をして答えた。
陽子 「ごめん、翠。私、ちょっと用があるから先に食べてて。」
陽子はそう言って、一人で教室を出て行ってしまった。
陽子は人気の無い体育館の裏手に行くと、腰掛けられそうな場所を見つけそこに座った。そして隠し持っていたラップに包んだ御飯を取り出すと、それに噛ぶり付いた。するとそこに二人組の女子が現れた。幸恵と詩織だった。
幸恵 「あら空納さん、何をお食べになっているのかしら?」
意地悪そうに幸恵が問い掛けて来た。実のところ、陽子と幸恵は旧知の間柄であった。かつて二人が引き合わされた時、幸恵の父親の会社のお得意様が陽子の父親だったので、幼心に幸恵は陽子に引け目を感じていたのだ。そして今、幸恵は陽子の家が経済的に困窮している事も知っていた。
幸恵 「まあ、なんですのそれ。見せて見せて、ウフフ…」
幸恵にそう言われてすっかり陽子は俯いて固まってしまった。やや投げ出されたようになった足の太股の上に力無く腕が落ちると、両手で受け止められるように置かれたラップの御飯が露わになった。それを見た幸恵は僅かに微笑みながら軽く跳び上がると、陽子のすぐ近くに着地してみせた。土埃が舞い上がり、陽子の真っ白な御飯が少し茶色く染まった。
その光景を翠が物陰から見ていた。彼女は陽子の様子がおかしかったので心配して後を付け
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