第一部
第一章
第二話『人魚姫なんて大嫌いなのに・・・』
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抜くようなマネをしたくはありませんでした。でもあなたが何も言わないのなら、私は自分のエゴを通しますよ。だってこれは私の人生なのですから。」
さやかは下を向いた。
さやか「そう…」
さやかは唇を噛み締め、涙をこらえた。そして搾り出すように言った。
さやか「それは個人の自由だからさ…」
仁美は厳しい顔をして答える。
仁美 「ではそうさせて頂きます。」
仁美は怒ったようにそういうと、その場を去って行った。
さやかは魂が抜けたように街を彷徨っていた。すると突然に、杏子が声を掛けて来た。
杏子 「よう、さやかじゃねえか。…どうかしたのかよ、元気ねえなあ。」
さやか「…うん、ちょっとね…」
杏子 「そうかよ…まあ生きてりゃいろいろあっからな。そんなときゃ飯でも食って元気出すっきゃねえぜ。さっ行くぞ。」
そして杏子は強引にさやかを近くのファミレスに連れ込んだ。
杏子 「さあ、何でも頼めよ。私のおごりだぜ。え〜と、私は何にすっかな〜。」
杏子はメニューを広げた。さやかはただ俯いて黙っていた。杏子は適当にご飯物を頼むと、それに加えてさやかにポタージュスープを頼んだ。
俯くさやかの前に、湯気立つスープが置かれた。しかしさやかは口を付けようとはしなかった。杏子は自分の食事をしながら、一方的にさやかに語り始めた。
杏子 「私が生まれた家ってさ、すっげー貧乏だったんだ。まあもっとも、その頃は日本中が貧乏だったんだけどな。私の親父は牧師だったんだけど、いつも人の事ばかりでさ。僅かに家にあった食料とかもよそ様にあげちまう始末でよ…。私には妹が一人いたんだけどさ、結局栄養失調で死んじまったんだよな。そんで私は親父に言ったんだよ、父親ならまず家族を養えって。でも親父はさ、信仰こそが人の至るべき処だ、とか言って私の話なんて聞きゃしなかったよ。私はさ、妹が死に際に言った、一度でいいからお腹いっぱいにご飯を食べてみたかった、って言葉がずっと忘れられなくってさ。それ以来、食べ物だけは粗末にする事は無かったよ。だからよ、さやか。現代っ子のお前さんにはピンと来ないだろうけどよ、私の妹の思いを汲んで食べ物を粗末にしないようにしてくれねえかな。頼むよ。」
その話を聞くと、さやかは顔を上げ杏子の方を見た。そして一旦手を合わせてから、スープに口を付けた。詰まったような胸の中を温かなスープが通ると、さやかの心も僅かにほぐされた。何口かすくった後、さやかは口を開く。
さやか「きっと、私の悩みや苦しみなんて、その当時の人達のそれに比べたら下らない事なんだろうね…」
杏子は優しい視線をさやかに向けながら返した。
杏子 「まあ、そんなこたーないと思うぜ。どんな悩みだって、その人にとって苦しい事には変わりねーんだからな。まあ、私なんて信用置けないだろうけどよ、悩み
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