第十話 またしての崩御その九
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「そうします」
「ですか、では」
「マイラ様の薔薇はですね」
「マイラ様のところにだけある」
「そうしますか」
「あの娘達は私とは違います」
やはり背を向けたまま、そして眉も曇らせての言葉だった。
「新教徒、そして正統な血筋」
「ですが」
司教がここでマイラに言った。
「マイラ様も王家の娘です」
「マリーや先王と同じくですね」
王の崩御は聞いていたのでこう呼んだ、そして彼女自身泣いてもいてそれを司教に窘められてもいるのだ。
「そう言うのですね」
「はい、ですから」
「違うことはない」
「そう思いますが」
「マリー達は王妃、若しくは正室の娘です」
マイラは己の血のことをまだ言うのだった。
「しかし私はです」
「ですか」
「側室の娘、血は濁っています」
己の中に流れるそれはというのだ。
「王家の血が流れていても」
「完全に清らかでないと」
「正室と側室は違います」
同じ妻としてもというのだ。
「まして母上はしがない出ですから」
「あくまでそう言われますか」
「事実ですから」
だから言うのだった。
「あの娘は私とは違います」
「マイラ様はですね」
「濁った血です、ですから」
「薔薇もですね」
「別々でいいのです」
背は向けたままだった、このことは変わらなかった。
「あくまで」
「では」
「そのままで」
こう言ってだ、マイラはマリーの申し出を断った。そのうえで孤独の中で学問に励んでいった。そのマイラを見てだった。
太子は司教にだ、二人だけで会ってこう話した。
「妃のことですが」
「はい、マイラ様ですね」
「どう思われますか」
怪訝な顔での問いだった。
「司教は」
「聡明な方です」
まずはこう答えた司教だった。
「極めて」
「そうですね、ですが」
太子もマイラが聡明であることは認めた、日々学問に励んでいるだけはありだ。
しかしそれでもとだ、彼は司教に語った。
「孤独に身を沈め過ぎています」
「そのことがですね」
「厄介だと思いますが」
「私もそう思います」
「王家で数少なくなった旧教徒であることと」
それにとだ、太子はさらに話した。
「お母上のことで」
「その通りです」
「どうしてもですね」
「あの方はです」
司教は太子にさらに話した、ここで司教は彼の質素な杯にある水を飲んだ。太子も飲みものを前にしているが杯は宝玉が散りばめられており飲むものは上等な茶だ。
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