53.辺獄・衣鉢継界
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めに地上に着地する。相手が次の行動を起こせないように一気に溶岩を凍らせようとしたが、どうやらあの溶岩は蒼炎の黒竜時よりさらに高温になっているらしく、まるで空間を歪ませているかのような陽炎が溶岩から立ち上っている。
ずるり、ずるりと大地を融解させながら、溶岩は一か所に集まり始めている。ちょっかいを出そうかと未だに氷雪の加護を得た鎖を投擲するが、あと十数Mの処で突然先端が消し飛んだ。物質的な性質を維持できなくなって崩壊したのだ。
魂をも縛る鎖を焼失させる熱、それは魂をも焼き尽くす熱。
これほどの高熱を纏って、いや熱そのものに変化してまで、黒竜は一体何のためにこんな姿になっているのだろうか。このままアメーバ状態になって体積を拡大し続ければダンジョンそのものが丸ごと巨大な火山になってオラリオは文字通り溶岩に飲み込まれるが、さしもの黒竜にもそこまでのエネルギーは内包していないのだろう。
「アズ、お前はあの溶岩の塊が何に見える?」
「えっと………」
脈打ちながら少しずつ球体に近づいていくそれは、白熱しながらもどこか原子生物的な印象を受ける。空間を乱雑に塗り潰す気配に乗って、鼓動を感じる。しばし黙考したのち、アズは答えた。
「卵………いや、蛹か?」
単なる蛋白質の集合体からもっと精緻で神秘的な灯を灯す寸前。
殻を破る寸前――新たな姿になる寸前。
新生。
再誕。
新たな環境に適応した個体。
「やはりお前は分かるか。俺もそう思う」
「待ってアキくん。それじゃ、さっきの炎の姿はまさか蛹になるための準備段階だったって言うの……?最初の戦いはあの竜にとっては単なる情報の集積と時間稼ぎだったって言うの!?」
「そこも含めて全てが奴ノ思惑ノ内カ………良いぞ、賢シサも又至高ノ強者ニ必要だ!!」
「喜んでる場合かおバカ!!ヤバイのが来るぞ――!!」
ぐちゃり、と粘音を立てながら、一つの塊となった溶岩の中から、この世の全ての光を無に帰すかの如き歪で巨大な漆黒の腕が這い出てきた。
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