53.辺獄・衣鉢継界
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なかった法則だ。リージュの内より出でてリージュのみに従う、リージュそのものだ。
全身が淡く輝き、黒竜の圧倒的な灼熱を纏う冷気が一気に押し返す。急激な温度変化のもたらす空気の奔流がリージュの髪を乱暴になぜる。吸い込む息は肺が凍り付くほど冷たいのに、リージュの体を巡る凍てついた血はそれを許さない。
凍てついた血、停止した刻。リージュは、そのような存在となったのだ。
「そう、そうか。これが私の『絶対零度』の根源的な――」
完全なる熱の支配に至らないのは、それだけ黒竜の放つ力が絶大であることを示しているのであろう。しかし、もはやそれもどうでもいい。今、リージュは大切な人のために動き回り、立ち向かう力を得ている。その事実一つだけを認められるなら、後は行動という選択肢以外に選ぶ道などありはしない。
「これならば、もう遅れは取らない」
視界に写るのは愛しい人とその親友となった人。見知らぬ人。そして、忌まわしき邪悪の化身。
状況は何も変わらない。相変わらずこの空間は灼熱に満たされている。ただ、リージュだけが劇的に変化した。もう耐えるだけの無様な姿など晒すことはない。この力ならば逆襲とて出来る。細かい力のコントロールは叶わないが――。
『節約など考えるな。仲間のことも無視しろ。このフロアを永久氷壁に変えるつもりでやれ』
それが必要だというのなら、リージュは躊躇いなくそのように世界を塗り替え、運命を凍結させよう。
「凍てつけ――氷獄の吹雪にその魂までも凍りつかせろ、古の獣よッ!!」
言霊が奔り、世界が魔力で塗り替わる。
リージュは気付いていない。自分の背中に刻まれた神聖文字が自動的に書き換えられ、レベルが一つ上に押し上げられていることを。自分自身がオラリオで公的に認められる3人目の最上位に名を連ねた事を。
= =
黒竜の焦熱領域を一変させる猛吹雪に背中を押され、二人の命知らずが風を背に受けて疾走する。その姿はまるで獲物を狩りにかかった二頭の餓狼のように研ぎ澄まされている。
「ったく、あんまり遅いから『徹魂弾』撃ちすぎちまって魂がぼろぼろだ!!俺ぁ明日はもう寝るぞ!!地上に帰らず宿で腐るまで寝る!!」
とんでもないことを口走っているアズだが、魂を削るこというのは寿命を削ることとは微妙に異なる。少なくともアズの解釈では、削りすぎなければあとで養生すれば魂は元に戻るものだ。……なお、削りすぎた場合に死亡するのか、本気で寿命が削れるのか、もっと違うことが起きるのかは本人もよく知らない。一つだけ確かなのは、まともではいられないという部分だけだろう。
無論それを知っているオーネストはいつもの調子で皮肉を言う。
「明日を迎えられれば好き
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