53.辺獄・衣鉢継界
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前の気まぐれで起きているのならば、もうこの話は終わらせたい』
今、オーネスト達は炎を纏った黒竜と絶望的な戦いを繰り広げている筈だ。
そして、それに打ち勝つためにリージュはオーネストの頼みを受け入れた。
『精霊だか何だか知らないが、構っている暇はない』のだ。
そんなリージュの毅然とした態度に、精霊は揺らめいた。
『我は汝に興味を持った。汝に力を与えた神でも、神の血を持つあの男でもなく、それを受け入れて今も躊躇いなく戦いに赴く意志を普遍的に抱く汝は面白い。汝に力は与えぬが、僅かな知恵を授けよう。汝が何に近づいたのかを知れば、汝の『絶対零度』の力は更なる飛躍を遂げるであろう。受け取るか?』
リージュはその言葉を咀嚼し、間髪入れずに結論を弾き出した。
『そうか、ならばとっとと寄越して失せろ。寄越す気がないなら失せろ。そして授けるのに時間がかかるのならば矢張り失せろ』
今必要なのは得体のしれない精霊の知恵ではなく時間である。
精霊が、どこか愉快そうに再び揺らめいた。
『面白い。焦って判断を疎かにしているのでもなく、機械的に裁定しているのでもなく、打算で顔色を窺うこともせず、自身の絶対的な裁量で選び抜いたな』
『そのおべんちゃらは私の「急いでいる」という発言を聞いていての事か?』
『焦るな、ヒトよ。精霊の時間はヒトの時間とは違う。こちらでの一刻は、あちらでは一瞬だ――祝福を受け取るがよい』
光の中から暖かな礫が飛来する。リージュはそれを受取ろうとしたが、自分の周囲に放たれた『奪う氷』が邪魔をして動けなかった。礫はリージュの額に当たり、音もなく体に浸透していった。
それを確認したかのように精霊の光はうねり、乱れ、やがて霧散していった。
『婉曲な奴だな。アキくんとは絶対にウマが合わない………う、ぐっ!?』
突如、頭に激痛。脳裏に無理やり理論が叩き込まれるように、リージュの全身を精霊の知恵とやらがあらゆる感覚、知識として駆け巡り、震わせる。
全身の血液が逆流するような冷たさ。
灯の逆転にある、消滅と異なる結果。
熱を奪い、纏わりつく極寒の雪。
転じて、動を静止させる力。
何処までも純白で、瞬間を幾重にも折り重ねた雪原に限りはなく、凍てついたまま全身を流れる血潮は加護と転じる。
右手を動かす。右にあった氷が金剛石を砕いたかのように美しい飛沫となって散り、そして腕に纏われる。
左手を動かす。左の氷がやはり飛沫の軌跡となって、『村雨・御神渡』へと纏わりつき、濡れるように艶やかな刀身が更なる輝きを纏う。
物質としての氷ではない。リージュの魂に刻まれた『絶対零度』という固有法則と神の力が振れて偶発的に生まれた、この世に存在し
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