53.辺獄・衣鉢継界
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或いはルサルカ。或いはヴォジャノーイ。或いはジャックフロスト。或いはシンビ。そのすべてがヒトの解釈によっては我であり、我ではない。総体であって総体ではない。全であって全ではない』
『メイヴ……ウンディーネ……ではお前は精霊だと言うのか!?』
『或いは妖精でもある。ヒトには理解できないだろうが、妖精と精霊の境とはヒトの認識が決めるものであって、我からすれば同一の存在であると言える。精霊の認識するヒトとヒトの認識する我々には微妙な差異が存在する』
光は極めて曖昧な発言を繰り返しているが、少なくとも人以上の存在であることは感じ取れる。冒険者として魑魅魍魎を相手にしてきたリージュの本能がそれを告げていた。だが同時に光を警戒し、敵視する意識はまるで沸いてこない。
『不思議だ、お前は。初対面の相手に当然として抱く緊張などの様々な意識が、お前の前では省かれている気がする。お前は敵なのか?そうではないのか?私に何をした?』
『お前が抱いている疑問は、お前の魂が我の側に近づいているから感じる肉体と精神のずれが齎すものだ。我にヒトの持つ嘘や疑いという概念はない。認めるのは事実のみだ』
『近づいている……精霊に、わたしがか?』
自らの肉体より湧き出る『熱を奪う力』は確かに人の身には強すぎる力だ。自分の内側からそれを出せば、自らの熱さえ奪いつくして死に絶えるだろう。それが起きていない現状を鑑みればその理屈も理解できなくはない。
『精霊とは神の下位存在。汝はあの男から血を受け取ったことで神秘の側にひとつ傾いた』
『待て……血を受け取るだけなら冒険者全体が言える。神聖文字を背中に刻まれる時点で微量ながら神血を受けるのが冒険者だ』
『お前はエピメテウスの血を得た。そしてあの男からの血も得た。血の力と薬によってその身には通常ではありえぬ根源霊素に満たされた。我からすれば余りにも不完全で不安定だが、ヒトの解釈からすればそれは我の概念と近づいたことになる。だから我は最初に驚いたと言った。汝は不完全ながらこちらに足を踏み入れたのだ』
自分が、精霊に近づいた。何一つ実感の伴わない重さのない言葉。今という瞬間さえ、リージュにとってはどこか現実味のない感覚だった。いや、そもそも自分は現実にいるのだろうか、それとも夢のなかにいるのだろうか。この感覚こそが精霊の言う『肉体と精神のずれ』なのだろうか。泡のように湧き出ては答えも出ぬまま弾けて消える疑問を抱きながら、リージュは問うた。
『お前は結局の所、何のためにわたしの前に現れた?わたしはお前からすれば不完全な精霊なのだろう?薬が関係あるのなら、あれは時間が経てば効果は切れる。ならばこの邂逅に何の意味がある?こう言っては何だが、私は急いでいる。戦いに赴かなければならない。この邂逅がお
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