53.辺獄・衣鉢継界
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熱――それは世界において最も基本的なエネルギー。
熱はこの世界において二つに分類される。
それは、『星』の熱と『生命』の熱だ。いや、もしも『星』を一つの生命体と考えるのならば、この世に存在する全ての熱は『生命』の熱ということになるのかもしれない。熱とはそれそのものがこの世に存在しようとする灯であり、それが尽きたときに人は刹那と那由他が永遠に交錯する世界へと旅立ってゆく。
灯は大きすぎればその身を焼き尽くす過ぎたる力ともなる。或いはほかの灯を飲み込むうねりともなるだろう。人は持ちすぎても、持たな過ぎても灯を維持することができない。まるで神の裁定の如き奇跡的なバランスの中で、人は生きている。
そのバランスが崩壊した瞬間、リージュ・ディアマンテはそれまでに感じたことのない悪寒を覚えた。
魔力の暴走だと聞いていたのに、魔法も使っていないのに、内から湧き上がる「熱を消し去る力」が全身を満たす。破裂するほどに膨れ上がったそれを――しかしリージュは失われていない冷静さに意識を注いで叫んだ。
「凍てつけ、凍てつけ凍てつけ凍てつけ凍てつけ凍てつけッ!!!」
破裂する前に放出しろ――彼の言った言葉だ。だから、とにかく放出した。
瞬間、喉を焼くほどの灼熱の窯に突如氷塊が噴出した。放出された瞬間に溶け、溶けた瞬間にさらに放出される。最初は拮抗しているように見えた高温と低温は、数秒としないうちに氷の噴出が勝り、リージュの周囲に大きな氷の空間を作り出していた。
この氷は、ただの氷とは違う。本来氷とは低温の環境と水がなければ成立しない個体だ。そして魔法によって発生するそれは氷ではあるが、氷が出現する原理が異なる。放出された魔力が魔法法則による定義づけで水として出現し、それが凍ることで氷魔法や水魔法は成立している。
しかし、リージュが放つ今のこれは何かが本質的に異なる。
これは奪うものだ。触れるすべての『生命』の熱――灯の力を奪い、消滅させる、冷気とは異なる性質を内包した『何か』だ。それが、自らの内より放出されている。本来は自らの灯と共にある筈の魔力が変質している。
『何が――私の中で、何が……』
『驚いたな』
唐突に、身を凍らせるほど冷たく透き通った声がした。
『無限の器と無限の可能性の融合――それがヒトにヒトならざる力を与え給うか』
『だ、誰だ……!?』
目には見えない。ただ、とても純粋な光がぼうっとしたシルエットを作り出していた。その姿はひどく曖昧で、人にも見えれば獣にもただの自然物にも見えるが、しかしそれには確かな意志を感じる。
『我は、ヒトがメイヴと呼ぶ者。或いはウンディーネ。或いはセルシウス。
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