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おぢばにおかえり
第三十三話 明治の中でその十二
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「変なこと言わないでよ」
「わかったわよ、じゃあね」
「もう私達も言わないからね」
「そうしてくれたらいいわ」
 むっとした顔のままで返しました。
「とにかくこの子とは何もないから」
「はい、そういうことなんですよ」
 ここでまた阿波野君が笑って言いました。
「ですから先輩のことは言わないで下さいね」
「そういうことね」
「はい、じゃあ先輩」
 今度は私に言ってきました。
「次は何処に行きますか」
「何処でもいいわ」
 不機嫌さはそのままなのでこう返しました。
「阿波野君に任せるわ」
「そうですか、じゃあこっちに行きましょう」
「ちっちまたね」
「集合時間には遅れないでね」
 皆は笑ったまま私達に手を振りました、そして。
 阿波野君と私は映画村の中を周り続けることになりました、今度行った場所はといいますと。
 日本橋でした、お橋の向こう側は何もありません。私は阿波野君にそのお橋のところまで案内されてこんなことを言われました。
「ここもよく撮影に使われてましたよね」
「ええ、さっきの奉行所もだけれどね」
「ここも多いんですよね」
「時代劇の定番の場所よね」
「はい、じゃあ橋の向こう側まで行きます?」
「何もないわよ」
 阿波野君にすぐに返しました。
「向こう側は」
「その何もない場所を見たんですよ」
「撮影場所を見たいの」
「はい、そうしませんか?」
「変な子ね」 
 変な趣味だとです、阿波野君に言いました。
「けれどまあ」
「いいですよね」
「別にね。じゃあ行きましょう」
「はい、こっちですよ」
 こうして橋の向こう側に行きますと実際に何もありませんでした。私はその何もない場所を見てからでした。
 私は少し寂しい気持ちになりました、表側とは違って何もないただのセッティングだったからです。そう思った私にです。
 阿波野君は横からです、こんなことを言ってきました。
「不思議な気持ちになりますよね」
「ここに来たら」
「はい、撮影場所の裏方見ますと」
「不思議っていうか」
 私は自分の素直な気持ちを話しました。
「寂しいわね」
「寂しいですか」
「そう思ったわ」
「そうかも知れないですね」
 阿波野君は私のその言葉に応えてこう言いました。
「何か表は華やかで」
「裏はね」
「言われてみればそうですね」
「そんな気持ちにもなるわよね」
「はい」
 私にそのまま答えてくれました。
「言われてみれば僕も」
「何かね」
「こうした舞台裏は」
「表が華やかなだけにね」
「かえって寂しさが増してますね」
「そうでしょ」
 こう阿波野君に言いました。
「これもまた現実って言えばそれまでだけれど」
「それでもですね」
「寂しいわね」
「そうですね
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