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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
OVA
〜暗躍と進撃の円舞〜
種族の憂慮
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吐息として吐き出すヒスイに、アリシャは勢いよく手を合わせた。
「だからゴメンッ!合同演習も中止させてくれないカナ?」
「そういうことやったらしゃーないなぁ。ただでさえ過剰戦力や言うてる奴らに力ぁ見せつけても火に油やし」
かえって運営への意見申請メール件数が上昇するだけだろう。
来週に控えていた新アインクラッド第二十層のフロアボスへの挑戦。それも見直しになるかもしれない。大手ギルドの連中に戦果を持っていかれるのは少々癪だが、事情が事情だけに致し方ない。
「あい了解や。細かいガス抜きはこっちでしとくわ」
「ごめんネー、いつも気ぃ使わせちゃって」
「領主が頭簡単に下げるもんやないで」
からからと笑いながら、ヒスイは自分のカップにポットを傾ける。
ケットシーの空軍、陸軍などと呼ばれるドラグーンとフェンリル隊だが、結成の順番から言っても、なんだかんだ言ってドラグーン隊のほうがエリート指向が強い。もともとフェンリル隊設立の理由の中にも、秘匿すぎて表には出しずらいドラグーン隊の代わり――――要は使い勝手がよく、かつすぐさまにでも動かせる戦力としての一面もあるのだ。どう足掻いたって、フェンリル隊の面々が劣等感を覚えるのは必然でもあった。
ドラグーン隊隊長を兼任しているアリシャから出た合同訓練を、他ならない本人が蹴るとなれば、フェンリル隊の隊員から少なからぬ不満は噴出するだろう。
―――それをいさめるのは、あての仕事じゃないんやけどなぁ。
ジャスミン茶に変わった中身のカップを傾けながら、ヒスイは肩をすくめた。
本来なら、隊員のメンタルケアは隊長の領分――――なのだが、笑顔で送り出した手前、戻ってくるなリ仕事を押し付けるのはどうだろうか。
ふぅと溜め息を吐き出すヒスイにアリシャは何かを言いかけた。
寸前だった。
バァン!と。
ノックもせず、部屋にいきなり闖入者が現れる。
見ればフェンリル隊の隊員でもなく、はたまたアリシャを追ってきた執政部の奴らでもない。ただ一般のケットシーの女性プレイヤーだ。
「ヒッ、ヒスイ!さん!」
「なんや……どうしたん?」
ただならぬ表情にさすがのヒスイも茶化す雰囲気でもなく、すぐさま駆け寄ってひとまず落ち着かせようとする。アリシャも空気を察したのか、小動物さながらのスピードで駆け寄る。
「あ、あああ、あの、そ、外に、外で――――」
二匹の巨狼が、うっそりと立ち上がった。
紅玉
(
ルビー
)
のような鈍い輝きを放つ瞳が静かに細められた。
その段階となって領主と副隊長、二人の実力者は異常に気付く。
先刻まで窓の外で散々響いていた総選挙前夜祭の、文字通りのお祭り騒ぎ。煩わしいけれど、どこか心を高揚させるその雑踏の声。
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