暁 〜小説投稿サイト〜
君に出逢えた奇跡

[1/4]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話

「ただいまー」
二人で帰ってきても及川は必ずと云っていいほど挨拶を欠かさない。だから岩泉がおう、と応えて靴を脱ぐとリビングに荷物を置いてソファーに体を沈める。及川はというと、冷蔵庫を覗いて缶ビールを二本見つけては岩泉に運び乾杯を求めるように首を傾け、ビールのプルタプを開ける。
「ん、かんぱーい」
「おめでとー!」
妙にまだ高いままのテンションでソファーに凭れるようにアイボリーのラグの上に座り込んだ及川がぐびっ、美味そうにビールを煽るものだから、岩泉もプルタプを開けてキンキンに冷えたビールを煽る。
口内に広がる苦味としゅわしゅわとした炭酸が喉に通ってすっと胸に落ちていく。ぷはーっ、及川が声を上げ、それから岩泉を見上げて笑って。
パチ、かち合った視線を絡め取るとどちらかともなくキスをした。触れるだけのキス。
「後二十日したら及川さんが生まれまぁーす」
くぴっ、小さく喉を鳴らしながら及川が告げる。
そう、岩泉が産まれて、四十日、及川徹はこの世に居なかった。不思議。傍に居るのが、当たり前だった二人にとって唯一、独りきりだった時間。勿論、こういう関係になる前は別々に過ごした時もあったけれど、それでも何処かで二人は友人を通してだとか、そういうことで繋がってたのだから当たり前が当たり前じゃなかった瞬間が確かにあったことが不思議だった。
「お前、すげぇ、時間かかったんだろ産まれてくんの。とっととくりゃよかったのに」
ぼやくように呟いた岩泉を見上げた及川がソファーに両腕を乗せ乗り上げて、なになに、やっぱ寂しかったんだーはじめ!とか揶揄うものだから岩泉は鼻を鳴らす。
なんとなく、そう、寂しいのだ。及川が居ない世界があったということが。なんでと云われたら答えられないけれど、なんでだか。きっと、待ってた。及川が産まれてくるのを産まれる前からずっと。なんて、云ってやらないけれど、そう岩泉は心の中で思うと口許を緩めるものだから及川がなになにー?とそのまま岩泉の膝の上にまで乗り上げる。頬はほんのり蒸気しておりニコニコと上機嫌だ。
「なんでもねーよ、バーカ」
鼻先をつはまじいてやると柔らかい前髪を持ち上げて口付ける。
なんとなくつけた取り留めのないクイズ番組が正解を告げていて、窓の外には猫の鳴き声と湿気を含んだ風が吹く。今度は唇に落とした口付けに、小さくリビングに反響した及川の吐息ごと飲み込みたくて熱っぽい視線を向けた岩泉をごくり、及川が見上げる。
ふにゃり、笑った及川が、ビール零れるから、と岩泉の手から缶を奪うと自分の背後のテーブルにほぼ空なそれらを並べて置く。それから隣にちょこんと座ると引き寄せられるようにちゅう、吸い付いた。岩ちゃん、と浮かれたように名をもじりながら。
「四十日も待たせてごめんね」
「ほんとだつーの、ボゲ」
クス、どちらかとも
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ