ヘルズインフェルノ
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「励起状態の暗黒物質は生物の体内に侵入すると、脳や細胞を変異させる。それがアンデッド化という形で身体に現れる。だから月光仔の血のように暗黒物質を抑制してしまえば、一時的に変異を止めて自我を取り戻すのも可能じゃないかって私は考えた。それで旅の最中、密かに材料を見繕って、薬剤の知識を頼りに調合してみたのがコレだよ」
「じゃあもしかしてこの注射器には、暗黒物質を抑制する薬が入ってるの!?」
期待するような眼差しで見つめるフェイトだが、マキナは辛そうな表情で言葉を続けた。
「……そう、私はそのつもりで調合したし、効果もあった」
「それなら……!」
「でもこの薬は、アンデッド化の兆候が出る前に打たないと意味が無い。これほど変異が進んでしまったら、効果なんて見込めるはずがない」
「そんな……! い、いや、それでも使ってみたら何か効果があるかもしれない!」
「希望にすがってる所悪いけど、この薬は一時的な“抑制”しか効果がない……次元世界の素材だけでは、そこまでしかできなかったんだよ。だからこれの用途は、太陽の光を浴びて体内の暗黒物質を浄化するまで、変異を抑える時間を稼ぐことしかできない」
「要するに、ただの延命措置……」
「ま、ここに太陽の果実を加えればもしかしたら、という可能性はあるけどね。とにかく今の段階では“治療”の効果は見込めない。もし効果が出たとしても、それは暴走で変異を悪化させてしまうか、もしくは変異した姿での意識の覚醒まで……だったら本人のためにも使わない方が良い」
「本人のため? どういうこと?」
「もしもの話……変異後に自我だけを“取り戻させられたら”本人の心はどうなる?」
「え?」
「まだわからない? 醜悪な化け物の姿に変わり果てた自分を見る羽目になった本人はどう思うか、想像できる?」
「……ッ!?」
「普通の人ならば精神が錯乱すると思う。人を襲う化け物になった自分の姿なんて、誰だって見たくないし知りたくもない。そして悲痛の涙を流し……『なぜ殺してくれなかった?』と叫び、『なぜ知らないまま眠らせてくれなかった?』と嘆くだろう」
「……!!」
「第一これはまだ試作品だから副作用が酷い、いわば劇薬だ。それに“虫”による変異は想定していないから、使った所で何の意味も無いかもしれない。でも意識が無いままだったら苦痛を感じずに済む……だからかつて同族を倒した時と同じように、こいつも浄化で楽にしてあげた方が良いんだ……」
無力さを噛みしめるようにマキナは注射器を握りしめる。自分より先にマキナが治療を試みて、今のままでは望みどおりに行かず、上手くいっていない事実を聞いたフェイトは悲痛な気持ちに苛まれるが、しかし気まずげに視線をそらした彼女は、膝をついて動か
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