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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百三十九話 挙国一致への道
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を口にすれば同盟市民も少しは考えたはずだ」
「……」
言葉が出なかった。おそらく私の顔は青ざめているに違いない。トリューニヒトの言う事は悔しいが正しいのだろう。私は同盟市民を理解していなかった。
民主共和制を布いている以上、市民感情を無視は出来ない。それなのに私はそれを知らずにあの作戦を立て実行した。もし、同盟市民の帝国に対する憎悪の深さを知っていればあの作戦を実行しただろうか?
シトレ元帥も帝国の脅威を重視するあまり同盟の市民感情を軽視したという事だろうか。そこまで私達はヴァレンシュタインに追い詰められていたという事か。
そしてヴァレンシュタインはその市民感情を上手く利用して同盟軍を帝国領へ誘い込んだ。情けない話だ、私は自国民への理解さえあの男に劣るという事か……。一千万人を殺したのは誰でもない私の無知が原因か。私にトリューニヒトを責める資格など欠片もない……。
そしてこの男は私を冷静に観察し、その欠点を押さえている。嫌な男だ、トリューニヒトに対する不快感がこれまで以上に増した。
「私は君に対して責任云々を問うつもりはない。今の同盟には君の力が必要だ。私達は過去よりも未来に対して責任を負うべきだと思っている。そうではないかね」
この男に慰められるのか、いっそ罵倒されたほうがましだ。
トリューニヒトの後をレベロ委員長が続けた。
「私とホアン・ルイはトリューニヒトを助け政権を担ってゆくつもりだ。何故なら、それが同盟のために一番よいと思うからだ」
「……」
「今の最高評議会を見れば分かるだろう。サンフォードやウィンザーのような自己の権力維持のためなら兵を死地に追い込むことを躊躇わない政治家が大勢居るのだ。君達は彼らとトリューニヒトとどちらを選ぶつもりだ? これ以上無益な戦いを続けるつもりか?」
「……では、政府は和平に向けて動くと言うのですかな?」
ビュコック提督が問いかけトリューニヒトが答えた。
「私達の目的は帝国との和平の締結だ。しかし今すぐ帝国との間に和平を結ぶ事は不可能だろう……。今の同盟に出来る事は専守防衛に徹し、出来る限り国力の回復に努めることだ。そして和平の可能性を探る、それくらいしかない……」
「……なるほど」
「シャンタウ星域の敗戦は財政面、国防面で致命的とも言える打撃を同盟に与えた。政府と軍部はこの危機を協力し合って乗り越えていかなくてはならない。違うかね……」
ビュコック、ボロディン、ウランフ提督が顔をこちらに向けてきた。止むを得ない、私は頷いた。彼らも頷き返す。どうやら私は今日からトリューニヒトの協力者になったようだ。全く今日は人生最悪の日だ。
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