第n+0話 あなたの足を少し埋める
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「おおおおやややや、ささ、ソーセージを焼いたよ。食べてくれ」
翻訳機を概要翻訳モードにすると、肉を細い物に詰め込んだものは大抵ソーセージと訳される。無論、何が要点なのかにも依るが。
各々がテーブルにつくと、老婆の方がフライパンから確かにソーセージを4つの皿に滑り分けた。
「ああらら、さ、食べましょ」
「「いただきます」」
夏雄と美都子の日本式挨拶が被る。
「おおおおやややや、いただきますというのか。近頃の人間は」
「ええ。まず手始めに街中で流行らせて、市場をいただきますで埋め尽くして、ゆくゆくは全次元共通語にしたいと思っているんです。夏雄君が」
「俺かよ」
「あああららら、夢見ることはいいことよねぇ。あなた達日本ってとこから来たんだって?いただきますを流行らせに」
「私はただの付き添いです」
「違いますからね。こいつの言ってること嘘ですからね」
夏雄は箸を止めて丁寧に反論を試みた。
「あああららら?」
「彼に夢を持って欲しくてちょっと誇張しました」
美都子は箸でソーセージを切ると口に入れた。
「ちょっと誇張じゃねぇよ完全に嘘だよ」
「あら?夏雄君に夢を持って欲しいと思ってるのはホントよ?そうなの?」
「俺に聞くなよ」
「だって、夏雄君が夢を持つようになると、鼠が枇杷の実で猫と仲良くなって仲良し砂嵐でしょ?」
「何の話だよ」
「れっつからおけや!」
「わけ分かんねぇよ」
「あ、琵琶じゃなくて三味線だった」
「だから何の話だよ」
「夢を持つことで夢を持てるねって」
「そりゃそうだろうな」
「おおおおおややややや、もしや2人は、コレかい?」
そう言って老夫は左手を波にさらわれるわかめのように動かした。さしもの翻訳機も、文字とジェスチャーには対応していない。
「角度が20°足りないですよ。……あ、ポテトあんみつのおかわり下さい」
美都子は住み慣れた居候のように、皿を前につきだした。
「ああああらららら」
老婆が美都子の皿にポテトあんみつを盛りつけたとほぼ同時に、
夏雄の体が、場所を変えずにふわっと浮いた。
「っ、さよならっ!」
約1秒、言葉が届いたかどうか確認すら取れないまま、
起き慣れた家のベッドで目を覚ました。
「っと……」
物置と化した勉強机の上に、鮮やかな赤色の付箋が1つ貼り付けてある。
家に帰ってくると、いつも同じ場所にそれはあるのだ。
「今日はかなり早かったな……」
ぶつぶつと感想を呟きながら付箋を剥がして手元にもってきた。
『孟母三味線紫外線 美都子』
「……」
考えるのをやめて付箋をゴミ箱に捨てると、夏雄は改めて家に帰ってきたことを実感した。
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