第三十三話 明治の中でその七
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「先輩に合いそうですし」
「合ってるの?私に」
「何か先輩って袴似合いそうですし大和撫子な感じなんで」
「大和撫子って」
そう聞いて私も思わず言いました。
「私そんなのじゃないわよ」
「そうですか?」
「そうよ、普通の神戸の下町の女の子よ」
「僕はそうは思わないですよ」
「どうして?」
「どうしてって。優しくて上品で」
何か私が聞いたことがない、私自身は言われたことがない単語まで出てきました。上品とかいう言葉は。
「大人で頼りになりますよ」
「後の三つ言われたことないわよ」
「優しいはあるんですね」
「それはあるけれど」
それでもです。
「後の三つなんて全然ないわよ」
「そうですか?」
「そうよ、上品とか」
とてもです。
「言われたことがないわよ」
「じゃあ皆知らないんですよ」
「知らないって」
「先輩のことが。先輩みたいな人いないですよ」
そうそう、という言葉でした。
「本当に」
「そう?」
「はい、今時」
「そんなこと言っても何も出ないわよ」
「先輩の笑顔が出ますよ」
「ば、馬鹿何言ってるのよ」
思わずこの言葉を言ってしまいました。
「私の笑顔って、そんなのね」
自分でも慌てているのがわかりました。この子は急に何を言い出すんでしょうか。
「出る筈ないでしょ、そんなこと言うと怒るわよ」
「先輩お顔真っ赤ですよ」
「だから怒ってるのよ」
はっきりとです、彼に言い返しました。
「お世辞とかそんなのでね」
「まあまあ、とにかくこの辺り歩いていきますよね」
「誤魔化さないの」
「誤魔化してないですよ、とにかくそうされますよね」
「他にすることあるかっていうと」
映画村ですから。
「ないわね」
「それじゃあ歩いていきましょう」
「わかったわ」
何か阿波野君の調子に乗っていますがそれでも彼の言葉についていくことにしました。それで二人で明治や大正の中を歩いていきますと。
本当にです、ハイカラというか不思議な雰囲気でした。洋館やそういった場所の傍にいて阿波野君に写真を撮ってもらったりして。
そして二人で近代の頃の日本の中にいてです、今度は。
阿波野君は私にです、今度はこう言ってきました。
「ここはじっくり歩きましたし」
「他のところに行くの?」
「そうしません?」
「他の場所って」
「もう結構色々な場所回ってます?」
「それなりにね」
そうだとです、阿波野君に答えました。
「阿波野君はどうなの?」
「僕もですよ。ただ二人ではないですよね」
「?どういうこと?」
「二人で回りません?他の場所も」
私ににこにことして言ってきました。
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