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第二部 WONDERING DESTINY
CHAPTER#4
DEPERTURES 〜旅立ち〜
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再び此処より遙か彼方、
エジプトへと続く空に視線を向けた。



「本当に、私としたら一体どうしちゃったのかしら。
急に熱が出て気を失うなんて。でも解熱剤で大分落ち着いたわ」
 上質なシルクの寝間着を身に包んだ美貌の淑女は、
羽毛布団を膝掛けにしていつも変わりない明るい声でそう言った。
「本当、に。もう、どこも苦しくない?」
 心底心配した表情で、傍に座っていた制服姿のシャナが
しきりにオロオロとホリィに問う。
「ええ。心配かけたわねシャナちゃん。もう大丈夫よ」
 そう言って少女に笑顔を向ける母親の姿を、
縁側へと続く引き戸に背をかけた貴公子が鋭い後目でみつめる。
(背中、だから……まだ自分の身になにが起こっているのか、気がついてはいないようだ)
 寝間着の首筋から微かに覗く、“荊” のスタンドを射るように見据えながら
青年は母親から視線を外す。
「本当にびっくりしたぞホリィ、どら、起きたらまずは歯を磨かなくてはな……」
 張りのあるワイシャツにネクタイ、カシミアのスラックスという
シックな服装に着替えたジョセフが、ホリィ愛用の清潔な歯ブラシに
歯磨きのチューブを塗って愛娘の口唇へと近づける。
「ウムム……」
 美貌の淑女は気怠そうな表情で、父親の奉仕を受ける。
「はい」
 シャナがガラス製の水差しから汲んだグラスを横から差し出す。
「顔も拭いて」
 今度は湯気の昇る蒸しタオルを手にしたジョセフが、
淑女の美貌を芸術品を扱うような繊細な手つきでそっと拭う。
「ウーン」
 フワフワとした声で美貌の淑女はソレに応じる。
「髪も少し乱れちゃってるわ」
 椿油を含んだ特製のブラシで、シャナがホリィの肩にかかる
柔らかな髪を甲斐甲斐しく梳かす
「爪もキレイに手入れをしてな」
 一体どこにあったのか、ボーリングのピンを模した爪切りの裏側で
ジョセフは鏡のように滑らかな娘の指先を磨く。
「リンゴとか食べられる?」
 手練の刃物(ナイフ)捌きに拠り、一拍で滑らかな球形に剥かれたリンゴを
ほぼ同体積に切って皿の上に乗せられたモノの一つが、
フォークを持ったシャナ手からホリィの口元に運ばれる。
「ア〜ン。ンン〜♪ 美味しい〜♪」
 シャナがリンゴを食べさせている間に、ジョセフは寝間着の裾を捲り上げ
細く白い脚線美の除く足の甲から膝辺りを丹念に拭いている。
「パパ? それじゃあ下着も履き替えさせてもらえる?」
 そう言って昔のように、布団の下から覗き込むようにして
自分を見つめる愛娘に対しジョセフは、
「……う、うむ……コホン」
頬を紅潮させて困惑する。 
「じゃあソレは私が」
 その脇でシャナがそっと羽毛布団を捲り上げた。
「フフフフフ、冗談よ。冗談。ウフフフフフフフフフフ」
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