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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百三十七話 敗戦の爪跡
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ゆっくりと少しずつ紅茶を飲んでいる。
「イゼルローン要塞攻略戦は二つの狙いがありました。一つは要塞の奪取、もう一つはヴァレンシュタイン元帥の失脚です」
「!」
静かなヤンの声だったが俺達を驚かすには十分な内容だった。思わず、ラップ、アッテンボローと顔を見合わせる。彼らの顔にも疑問が浮かんでいる。ヴァレンシュタイン元帥の失脚? どういうことだろう。
「私は彼が居る限り同盟は帝国に勝てない、同盟は彼の前に滅びるだろうと思ったんです。同盟を、民主主義を守るために彼を倒さなければならないと思った……」
俺もラップもアッテンボローも声も無くヤンの独白を聞いている。ヤンは何か重大な事を話そうとしている。気になるのはヤンの表情に何処か自虐的に見える笑みがあることだ。
「前線に出てこないヴァレンシュタイン元帥を倒す事は私には不可能でした。だから帝国人の手で彼を倒そうと思った……」
「待ってくれヤン、その事とイゼルローン要塞攻略がどう繋がるんだ、ローエングラム伯の失脚を狙ったというなら分かるが」
ラップの言葉にヤンは何処か凄みのあるような、禍々しいような笑みを頬に浮かべた。顔色の悪さがその印象を余計に強めている。居間の空気が何処か張り詰めたように感じられた。
「ラップ、ローエングラム伯が死ねば彼の姉、グリューネワルト伯爵夫人はどう思うかな。自分が宇宙艦隊司令長官になるために、弟をわずか一個艦隊で同盟領に送り込んだ、そして弟を戦死させた……」
「!」
何処か笑っているようなヤンの言葉が張り詰めた空気をさらに重苦しいものにした。俺たちは皆声も無くヤンの言葉を聞いている。
「上手く行けば、彼を帝国人の手で排除できるでしょう。それが無理でも失脚させる事が出来るかもしれない。彼が失脚すれば帝国軍はその支柱を失います。そして内乱を防ぐ人材を失うことになる」
いつの間にかヤンは呟くような口調で彼が考えた謀略を話していた。有り得ない事ではない、やりようによっては不可能でもないだろう。帝国という国ならば、君主制国家に対してならば仕掛けることは可能だ。
「帝国との間に和平が結ばれるかどうか分らない。しかし結ばれなくても、帝国が混乱してくれれば同盟が回復する時間は十分に取れる、そう思ったんですが、失敗しました。ほんの僅かな差で私は失敗したんです」
俺の目の前で何処か自らを嘲笑うかのような口調で話しているのは戦略家ではなく謀略家としてのヤン・ウェンリーだった。この男にそんな顔が有ったのか……。
「その後は知っての通りです。ヴァレンシュタイン元帥は私が何を考えたか、あのイゼルローン要塞攻略戦が何を目的として行なわれたか、全てを察したのでしょう」
「そして、シャンタウ星域の会戦が行なわれました。同盟が二度と帝国に対
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