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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百三十七話 敗戦の爪跡
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者と非難する文章もあった。全滅した艦隊の家族からのようだ。遠征から帰って以来ヤン提督は食事も碌にせず、お酒ばかり飲んでいる。

もう直ぐ、キャゼルヌ少将、ラップ少佐、アッテンボロー准将がやってくる。ヤン提督の事を話したら心配して来てくれるようだ。本当にありがたいと思う。

どうやら来たみたいだ。玄関が騒がしい。多分、ジャーナリストを押しのけているんだと思う。こっちもお茶の準備をしなくっちゃ。



宇宙暦796年10月 7日    ハイネセン アレックス・キャゼルヌ



「おい、ヤン。何時まで寝ているつもりだ、もう十一時だぞ」
「……ん、ん、あれ、キャゼルヌ先輩、どうして此処に?」
酷い顔だ。眼の下に隈が出来ているし、顔色も悪い。これは重症だな。

「お前さんが酒ばかり飲んでいるとユリアンが教えてくれてな、心配だから見に来たんだ。いい加減着替えて来い、ラップもアッテンボローも来ている。待っているからな、早くしろよ」
そう言い捨てて寝室から居間に戻った。

十分程たってからヤンが居間に現れた。こうしてみると良く分かる。顔色の悪さと隈だけじゃない。目も少し充血している。碌に眠っていないのだろう。困った奴だ。

ヤンは少し困ったような顔で頭をかいた。
「すみません、先輩、ラップ、アッテンボロー」
「俺たちよりユリアンに謝るのが先だろう」

「そうだね、ラップの言うとおりだ。ユリアン、心配かけてすまない」
「そんなことは……」
ユリアンはお茶の用意をすると奥に引っ込んだ。俺たちだけで話をさせようと言う事らしい。本当に良く出来た子だ。

ヤンは紅茶を、俺たちはコーヒーを飲みながら顔を見合わせる。
「ヤン、何を悩んでいるか想像はつく。あれはお前さんの所為じゃない。気にするのは止せ」
ラップの言葉に俺もアッテンボローも頷いた。

「そうですよ、先輩の所為じゃありません。大体先輩は出兵に反対していたんです。それを戦場に行かせたのは同盟政府とそれに賛成した同盟市民、それを煽ったジャーナリズムじゃないですか」
「……」

「今になって味方を見殺しにしただなんて、無責任な……。あのシャンタウ星域で一体何があったか、誰も知りはしないでしょう。見殺しにされたのはこっちです。味方からは使い捨てにされ、敵からも追われ続けた……。あの地獄を知らない人間に俺たちを非難する資格なんてありませんよ!」

吐き捨てるように言った言葉にアッテンボローの怒りが見えた。余程腹に据えかねているらしい。ジャーナリスト志望だっただけに無責任な報道に我慢できないのかもしれない。

ヤンは黙ったままだ。少し俯きながら紅茶を飲んでいる。皆顔を見合わせ黙り込んだ。あの撤退戦を思い出しているのだろうか。重苦しい沈黙が落ちる。

あそこ
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