アインクラッド編
10.卵を食べよう!
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「ナツ!まだ!?」
「せっかちッスねぇ先輩は。もう少しでできますから待ってくださいッス」
既に三度目になる掛け合いを聞いたシルストは、やれやれとでも言いたげに溜め息をついた。アンとタクミは苦笑を浮かべ、クリスティナとリヒティは二人の世界に入り込み、ウィンドウを開いてなにやら親しげに話している。
そこまで観察した俺は、手元の新聞――――と言っても数ページほどしかないが――――に目を落とした。
キッチン付きの宿を借りてナツが料理を開始してから、15分経った。
「おぉ!すごい!」
いつになく高めのトーンでミーシャは歓声をあげた。それもそうだろう。目の前には、俺もこの世界に来てから見たことがないような料理が並んでいる。謎の野菜を使ったサラダは置いておいて、先程狩った黒鳥の肉を使ったチキンライスに卵焼きをのせたオムライスに、デザートはフルーツショートケーキだ。
「冷めないうちに召し上がってくださいッス!」
「いただきまーす!」
全員で唱和し、スプーンを伸ばす。しばらく食べ進める音だけが響き、すぐに皿は空っぽになった。正直に言うと、今まで行ったどのNPCレストランよりも旨かった。
「はあぁー、美味しかった・・・」
食後のお茶を啜りつつ、ミーシャは心の底から満足したように呟いた。タクミやアンもうんうんと頷く。
「喜んでもらえてなによりッス!あとはケチャップがあれば完璧なんスけどねぇ・・・」
「あら、出来ないの?」
ミーシャとは違い上品にお茶を飲んでいたクリスティナがやや首をかしげて聞いた。
「それっぽいソースは出来るんスけど・・・どうしても現実のケチャップとは違いがあるんス。ケチャップ、ていうよりはうすーいトマトソースっぽい味になるんスよ」
「じゃあ、ナツがレシピを開発すればええが」
「えぇー、無理ッスよ!味覚パラメータの解析メチャクチャ時間食うんスよ!」
「でも時間かければ出来るんじゃろ?手伝うで?」
ニコニコと笑いながら無茶ぶりをするシルストを、ナツは困ったように見ていた。しばらく二人は睨み合いを続けるが、やがてナツが決心したように手をぐっと握る。
「分かったッスよ!俺がいつかケチャップを作って、皆に食べさせるッス!」
「おっ言ったなナツ!楽しみにしてるぜ!」
リヒティがナツの背中を思い切り叩き、あまりにも強すぎて犯罪防止コードが発生して、ナツは勢いよく吹っ飛ばされた。その場にいた全員が笑った。
その光景を、俺はただ黙って見ていた。
煩わしい、とは思っていなかった。
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