巻ノ五十二 島津四兄弟その四
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「この中にな」
「中にとは」
「今我等は敵同士ではない」
あくまでというのだ。
「だから刃を振るうことなくな」
「その、そう言われていますが」
「しかしです」
「幾ら何でも」
「いやいや、我等は薩摩隼人」
声は懸念する十勇士達にこう言った。
「ここで刃も毒も使わぬ」
「ではまさに」
「我等をここまであえて通し」
「そのうえで」
「お会いしたいと」
「その通り」
これが声の返事だった。
「それはわしが約束しよう」
「貴殿がでござるか」
「この島津義久が」
ここで声は名乗った。
「そうさせて頂く」
「島津義久殿というと」
幸村はその名を聞いて思わず声をあげた、小さな声であったが。
「島津家の」
「うむ、主を任されている」
「ではそこには」
「弟達も共にいる」
つまり四兄弟達もというのだ、島津家を率いその鉄の結束でこれまでの多くの戦を勝ち抜いてきた彼等がというのだ。
「四人で待っている」
「では」
「それでは」
「その中にか」
「入り」
「ここまで来るとは思っていたが」
それでもというのだ。
「途中兵に怪しまれればそれまでと思っていた」
「しかし我等はここまで来た」
「ならば我等の目に狂いはなかった」
まさにというのだ。
「貴殿達は見事ではな」
「これよりですな」
「酒を用意してある」
「そしてその酒を」
「共に飲もうぞ」
こう言ってだ、そのうえでだった。
幸村は実際にその中に入った、十勇士達を連れて。そこには篝火に照らされ大きな盆、酒が置かれているそこにだった。
四人の者達がいた、四人共橙色の具足に陣羽織を着ている。その者達がそれぞれ名乗った。
「島津義久」
「島津義弘」
「島津歳久」
「島津家久」
こう名乗った、皆精悍な顔立ちをしている。四人共太い眉に長身で引き締まった身体をしている。兄弟であることがよくわかる程似ている。
そしてだ、義久が四人を代表して言った。
「我等が島津四兄弟」
「お初にお目にかかり申す」
幸村は義久に頭を下げて名乗った。
「真田源次郎幸村と申します」
「そしてですな」
「この者達がです」
後ろに控える彼等を指し示しての言葉だ。
「十勇士です」
「天下に名高い」
「それは知りませぬが」
それでもというのだ。
「この者達はそれがしの家臣であり義兄弟であり友でもあります」
「左様ですな」
「はい、以後お見知り置きを」
「では」
「酒をですな」
「飲みましょうぞ」
こう話してだ、主従は四兄弟と共に飲みはじめた。その時にだ。
義弘は盃を手にだ、笑って言った。
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