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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百三十五話 波紋
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味で言ったわけでは」
「冗談ですよ、ワーレン提督。本気にしないでください」

会議室に笑いが満ちた。ワーレン提督も頭をかいて笑っている。司令長官はちょっと困ったような表情で苦笑している。

「捕虜交換はフェザーンの弁務官同士で交渉を行ない帝国軍、反乱軍で共同声明を出すような形で進めるのがいいと思います。証人は両国の市民、そういうことになるでしょう。ローエングラム伯はどう思いますか」

問いかけた司令長官でも問われた副司令長官でもなく、周囲のほうが緊張したかもしれない。皆一昨日の一件を知っている。その事が微妙な影を落としている。

「小官には異存有りませんが、その際工作員を入れるのですか」
副司令長官は僅かに悔しそうな声を出したが、司令長官の意見に反対はしなかった。

「それは、今決めなくてもいいでしょう。その時点でもう一度検討しましょう。情勢がどう変わっているか分かりませんから」
どうやら、司令長官は工作員を使っての謀略にはあまり乗り気ではないようだ。

副司令長官は今ひとつ納得しかねる表情だったが司令長官は気にした様子も無い。たいしたものだ、ここまで感情を抑えられるとは……。俺では到底無理だろう。何処かで爆発しているに違いない。

「ただし、ワーレン提督が心配するように反乱軍が捕虜交換を信じない可能性もあります。念のため別働隊は兵力を多くしたほうがいいでしょうね。大体五個艦隊から六個艦隊程度、そのくらいは必要でしょう」

司令長官の言葉に会議室がざわめいた。
「元帥閣下、別働隊ですが指揮官はどなたになるのでしょうか?」
「ローエングラム伯にお願いする事になります。伯は前回の戦いでも十一個艦隊を率いていますから問題は無いでしょう」

ケスラー提督の質問に司令長官が答えた。問題は無い、確かに軍の指揮官としての能力、そういう意味では問題は無いだろう。問題は副司令長官の心だ、大丈夫だろうか。提督達は反対こそしないが顔を見合わせている。

「ローエングラム伯、艦隊司令官を五人選んでください。作戦は長期になりますから、やりやすい形で別働隊を編制してください。よろしいですね」
「はっ」

副司令長官自身の艦隊も入れれば六個艦隊が辺境星域へ派遣される事になる。全軍の三分の一の兵力だ。門閥貴族、反乱軍、その両者に備えるとなれば確かに兵力は必要だろう。

どうやら司令長官は副司令長官を切り捨てる考えは無いようだ。ミッターマイヤー、ロイエンタールも不安を持たずにすむだろう。もし、別働隊をメルカッツ提督に任せるようなら司令長官はローエングラム伯を何処かで切り捨てる覚悟を決めたという事のはずだ……。

昨日、ルッツ提督、ワーレン提督と飲んだ時に出た話だ。ルッツ提督と視線が合った。微かに頷いてくる彼に同じように頷き返す。
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