第四章
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「一体」
「まあそれは最上階に行かれた時にです」
「その時になんだ」
「おわかりになるかも知れないです」
「知れないんだ」
「はい、何はともあれです」
「僕一人でだね」
「お登り下さい」
その黄鶴楼をというのだ。
「最上階まで」
「わかったよ、じゃあね」
「はい、どうぞ」
「行って来るよ」
こう言ってだ、そしてだった。
劉は実際に辛の見送りを受けてそのうえで黄鶴楼に入った、そしてそのまま一階一階と階段を登っていき。
程なくして最上階まで来た、これまで楼の中には誰もいなかったが。
そこには一人の道士の服を着た白い髪と髭の老人がいた、老人は楼の窓のところに立ってそこから外の景色を観ていたが。
劉が最上階の真ん中まで来た時にだ、彼の方を振り向いて言った。
「ほう、これは」
「これは?」
「この時に客人とは珍しい」
「客人とは」
劉は老人のその言葉に顔を向けた。
「貴方はこの楼の主ですか」
「いや、主ではないが」
しかしとだ、老人は彼に言う。
「ここに縁がある者でな」
「黄鶴楼と」
「うむ、それで時々ここにこの時間に来てな」
「景色を楽しまれていますか」
「もうすぐ日が登る」
そうなるというのだ。
「いよいよな」
「それで今、ですか」
「うむ、朝日が登るのを待っておったのじゃ」
それで窓の外を眺めていたというのだ。
「暫くな」
「そうだったのですか」
「うむ、そうじゃ」
その通りという返事だった。
「こうしてな」
「そうですか」
「しかし御主ここで来たからにはな」
それならとだ、また言う老人だった。
「御主が観るとよい」
「私がですか」
「存分にな、わしは明日晴れたらまた来ればいいだけのこと」
「ご一緒に観られないのですか」
「ここでの朝日は一人で観るからよいのじゃ」
「それはどうしてですか?」
「何じゃ、知らんのか」
老人は劉が自分の言葉に怪訝な顔になったのでだ、こう返した。
「ここの由来を」
「黄鶴楼の」
「ここは何故そう呼ばれているのかな」
「確か仙人が黄色い鶴を店の勘定として払ってその鶴の絵が動くのでそれを目当ての客が集まってでしたね」
「もう一つ話があってな」
「もう一つとは」
「ここで朝日を観るとその朝日と共にな」
まさにというのだ。
「黄色い鶴が出るのじゃ」
「その黄鶴が」
「そしてその鶴を観ればな」
それでとだ、老人は劉にさらに話した。
「願いが一つ適うのじゃ」
「そうなのですか」
「この話は知らなかったか」
「はじめて聞きました」
「この話は残っておらなかったか」
「残っていないとは」
「呉の最初の頃はそれなりに知られておったがのう」
老人は残念そうに言った。
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