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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百三十四話 哀しみは優しさを誘う……
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のか。踊っていいのは俺だけなのだろう。
「士官学校でもダンスは軍人の嗜みの一つとして教えますよ。私達を見ればお分りでしょう。如何ですか、彼らと踊っては」
そう言うとヴァレンシュタインは艦隊司令官達のほうに顔を向けた。
「馬鹿な、平民風情と踊れるか、無礼にも程があるぞ」
「そうだ、図に乗るな」
貴族たちが口々に嘲笑と侮蔑を与える。一瞬にして雰囲気が険しくなった。令嬢たちも気まずそうに視線を逸らす。ヴァレンシュタインの後ろにいるアイゼナッハの視線が厳しくなったが、ヴァレンシュタインの表情は少しも変わらない。柔らかな微笑を浮かべたままだ。
「卿らは男同士で踊っていれば良いのだ」
「そうだ、良く似合うぞ、今度はマントではなくドレスでも着たらどうだ」
下卑た笑いが起きた。
貴族達がさらに侮蔑を加えた。異変を感じたのだろう。ミュラーを始めとした艦隊司令官達が不安げに見ている。ヴァレンシュタインは気にした様子も無くブラウンシュバイク公の部下に話しかけた。
「アントン、私達は公に招待された客だと思ったが違ったようだね。何処か手違いがあったらしい」
ヴァレンシュタインの言葉に貴族たちが嘲笑を浮かべながらアントンと呼ばれたブラウンシュバイク公の部下を見た。公の部下は一瞬だけ辛そうな表情をしたが直ぐ無表情に戻り、ヴァレンシュタインに答えた。
「……、いえ、そんな事はありません、宇宙艦隊の方々を招待したのはブラウンシュバイク公です」
部下の言葉をブラウンシュバイク公は苦い表情で聞いているが否定はしなかった。もしかすると苦い表情は貴族たちに対するものかもしれない。
「その言葉を聞いて安心した。ブラウンシュバイク公、もう少しで私達は招待されたのは間違いだと思ってこちらを失礼するところでした」
「止めはせんぞ。今からでも帰ったらどうだ」
馬鹿な貴族が嘲笑交じりに言葉を発した。その言葉にヴァレンシュタインは声を上げて笑った。
「ブラウンシュバイク公、この方たちは私を怒らせたいのか、それとも笑わせたいのか、どちらだと思います?」
そしてブラウンシュバイク公の答えを待たずに俺に笑いながら言葉をかけてきた。
「それにしても、この方達は随分と勇気があるとは思いませんか、ローエングラム伯。宇宙艦隊司令長官を侮辱する人間がいるとは思いませんでした」
「……」
「それともただ思慮が足らないだけなのかもしれませんね。カストロプ公、ブルクハウゼン侯爵、ジンデフィンゲン伯爵の事をお忘れのようです」
「……確かに司令長官閣下の仰る通りです」
楽しそうな口調のヴァレンシュタインの言葉だったが、何処か冷笑を感じたのは俺だけではあるまい。貴族達の顔は瞬時に凍りついた。今更ながら自分たちが侮辱している相手が何者なのか思い出した
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