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バッタ
第四章
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「やはりですね」
「そうだな、航続距離が短いあまりにな」
「ドイツ軍はイギリスを攻めきれませんでしたね」
「特に戦闘機がな」
 その航続距離がというのだ。
「短か過ぎてな」
「どうもです」
 源田は難しい顔で大西にこうも言った。
「ドイツ空軍の航空機の航続距離は我々から見ると」
「本当に信じられないまでにな」
「短いです」
「短か過ぎる」
「全く以て」
「あの程度の航続距離ならだ」
 それこそとだ、大西も言った。
「ドーバー海峡からロンドンに行くだけでもな」
「満足に戦えないですね」
「戦闘機がそうではな」
 敵機と戦い爆撃機を護衛するだ。
「勝てる筈がない」
「全くです」
「ああなったのも道理だ」
「我々から見ますと」
 源田は日本軍人として言った。
「ドイツ空軍の航空機、特に戦闘機はお話になりません」
「我々は新型の戦闘機を導入したがな」
「はい、零式艦上戦闘機を」
「あれの航続距離は特に凄い」
 大西は確かな声でだ、源田に答えた。
「最早ドイツ軍のメッサーシュミットなぞ問題にならない」
「そこまでですね」
「それまでの戦闘機も陸軍さんのものでもな」
「ドーバー海峡からイギリス本土の殆どまで楽に行けて戦えます」
「言うならトンボだ」
 大西は言った。
「我々はな」
「幾らでも飛べる」
「それだ、しかしドイツ軍はな」
 翻って彼等はというと。
「バッタだ」
「その程度ですね」
「バッタではフランスからイギリスまで行ける筈がない」
 到底という口調での言葉だった。
「ドイツ軍がイギリス相手に勝てなかったのも道理だ」
「どうもゲーリング航空元帥の采配にも問題がありましたが」
「そうだな、しかしそもそもだ」
「満足に戦えない位の航続距離では」
「勝てる筈がない」
「そういうことですね」
「それぞれの国の兵器思想があっても」
 大西はドイツ軍の兵器の設計、使用等の考えについては完全に否定しなかった。だがこうも言ったのだった。
「しかし我々はな」
「真似は出来ないですね」
「あんな航続距離では日本では戦えない」
「全くです」
 源田も大西のその言葉に頷く、ドイツ空軍がイギリスを攻めきれず退いたのを日本から見届けたうえで。 
 それまで無敵を誇っていたドイツ軍、とりわけ空軍はイギリスを攻めきれず攻撃を無期延期事実上の中止としたのは歴史にある通りだ、そのことについてはドイツ機特に戦闘機の航続距離の短さもあったこともまた歴史にある、彼等はイギリスを攻めるまではそのことに気付いていなかった。しかし気付いた時には遅かった、しかし当事者でない者は既に気付いていた。これもまた歴史の皮肉ということであろうか。それとも人間の世そのものの皮肉であろうか。


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