第一章
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モナムール
何もいない場所、たった一つの空いている席。
私はその席を見てだった、ため息をつくこともしなかった。
当然のことと思っていた、それでだった。
店員の人にだ、注文をした。
「コーヒーくれるかしら」
「お幾つですか?」
「一つよ」
微笑んでこう告げた。
「一つお願いするわ」
「わかりました」
その注文から暫くしてだった、コーヒーが一つ来てだった。
私は半分飲んでだ、そのうえで店を後にした。この時に店員さんに言われた。
「半分残っていますが」
「ええ、そうよ」
「それでもですか」
「美味しかったわ」
怪訝な顔をする店員さんにお金を支払って店を後にした、そして。
その日はそのままバーに行って飲んだ、その私にだった。
バーのマスター、馴染みの人が私に聞いてきた。
「浮かないですね」
「わかるのね」
「はい、一杯頼まれて」
カクテルをだ、頼んだカクテルはスコーピオンだ。
「そのカクテルを半分だけ飲まれている」
「そのことからなのね」
「わかりました」
「そうなのね」
「半分だけとなると」
そのことからだ、マスターは察して言って来た。
「やはり」
「わかったわね」
「はい、そういうことですか」
「今日はそうした気分なのよ、そしてね」
「明日からはですね」
「また一杯飲むわ」
私はマスターにくすりと笑って告げた。
「そうさせてもらうわ」
「左様ですか」
「ええ、それでね」
私はマスターにさらに言った。
「今日はこれで帰るわ」
「ではまた」
「明日ね」
「そういうことですね」
「一杯を全て飲む」
私はその半分だけ飲んだグラスを見つつ言った。
「二人だから出来ることね」
「相手の方の分も飲むということで」
「だから飲めるのよ」
一杯を全てだ。
「けれど一人だとね」
「半分だけですね」
「仕事から帰って喫茶店に呼んだけれど」
「それでもですね」
「来なかったから」
「それで、ですね」
「私はコーヒーも半分だけでね」
そしてだった。
「カクテルもね」
「半分だけですね」
「それだけよ、一人だから」
「それでは」
「また明日よ」
明日からだった、本当に。
「まだ一人だけだけれど」
「気を取り直させて」
「この半分は彼への餞別よ」
私の前から去ったその彼のだ。
「そう、だからね」
「今日だけは半分ですね」
「それだけ飲むわ」
「左様ですか」
「ではまたね」
「はい、それでは」
マスターは私の別れの言葉に笑顔で応えてくれた、その後は。
私は部屋に戻ってシャワーを浴びてから寝た。泣くことも悲しむこともなく寂しさも感じながらも自分でも終わったと感じて。
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