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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 24
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拘る女性なら決して見逃さないであろう点を、ミートリッテは完全に失念していた。
 「海の近く、鮮魚に並ぶ一押しの完熟オレンジとマーマレード。ネアウィック村を知っていれば、結び付けるのは簡単です。特に最近、果樹園の売り上げが伸びているのではありませんか? 同時に農園主の出張も増えていたり」
 「え? なん……  まさか!?」
 「はい。表向きは商談、本音は農園主の素行及び業務の実態調査、といった所でしょう。調査隊を直接派遣して来ないのは、似た環境で異なる複数の生産地にも疑いを掛けているから。いつ現れるか判らない怪盗への備えもありますし、警備を手薄にするよりも餌(取引)をぶら下げて農園主(容疑者)達を手元に集めたほうが効率が良いと判断したのだと思います。そしてそれを、屋敷等の残り香に気付いた貴族達が順番で繰り返している」
 嬉しそうなピッシュの笑顔が浮かんだ。
 オレンジが大好きで、オレンジを育てる事に誇りを持っている雇い主。より多くの人がオレンジを好きになってくれたらと、身を粉にして働く恩人の一人。
 彼の笑顔を、誇りを、生き甲斐を。シャムロックが奪いかけている。
 気付いた瞬間頭の奥が真っ黒になり、体がブルッと震えた。
 「……シャムロック。貴女は深夜密かに奪った品を、翌朝までに各領境付近で、バーデル方面から来て帰る直前の商人達へ、適当な理由を付けて売っていましたね。その代金を各種産業用の道具に変え、地元の生産所にこっそり配り歩いた。販売店や卸売り業者、道具製造者には売上金を。他の生産者達には新しい道具を提供する事で、作業効率の向上と経営資金等の負担軽減を図っていた……でしょう?」
 正体だけではなく、具体的に何をしたのかまで見破られているのか。
 最早言い逃れする気力も無い。
 ぎこちない動きで頷く。
 「イオーネさん達は、シャムロックが暗躍を始めて一年と半年経った頃からバーデル側国境沿いの村や街へ活動拠点を移し、帰国或いは通過入国したばかりの商人を狙って殺害、盗品を更に奪い取っていたそうです」
 「なっ……!?」
 「貴女が長年捕まらなかった理由の一端も此処にあります。盗みに気付いた貴族や護衛達が慌てて貴女の影を追い掛けても素早い足で振り切られ、怪しい人間を割り出そうと自領を奔走したり、他領主に捜査の協力を申請し、承諾を得てどうにか盗品の足取りを掴めたとしても、必要な手続きを踏む間に肝心な目撃者兼当事者が国外で殺されて品物も失くなっているのだから、以降追跡する手段は皆無に等しい。予め各役所で監視を強化していても、貴族達の所有品一覧表がある訳ではないので、商人達が確かな身許さえ証明可能なら、問題無く迅速に越境できてしまう。かと言って、国境だろうと地方領境だろうと、高級品の持ち出しを規制する法案や条例案が認められる筈もありません。財
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