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艦隊これくしょん【幻の特務艦】
第十七話 作戦開始日前日
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雄をまじまじと見た。
「大丈夫よ。私はそんなに簡単に死なないし、死ぬつもりもないわ。・・・・この戦いが終わるまでは。」
最後はまるで自分自身に言い聞かせるようだった。


その夜、紀伊と讃岐は同じ部屋に泊まることとなった。近江は尾張一人では寂しいはずだと言って、そちらの部屋に泊まることとなった。尾張のほうも、紀伊に対しては辛辣だったが、すぐ下の近江に対してはやや言葉を和らげるところがあった。

既に時刻は21時を回っている。明日に備えて誰もが早めに床に就いていた。夏にもかかわらず、今日の夜は比較的涼しい。かすかに虫の音が聞こえ、心地よい夜の微風が吹いてくる穏やかな夜だった。
夢の海に揺蕩っていた紀伊はふと、自分の名を呼ばれたような気がした。
「姉様?」
躊躇いがちに声をかけてきたのは、隣に寝ている妹だった。顔をむけると妹は布団の上に体を起こしていてこちらを見ている。
「どうしたの?」
紀伊は半身を起こした。
「・・・・ごめんなさい。起こしてしまって。でも、眠れなくて・・・・。」
紀伊はそっと掛け布団をどかすと、自分もまた起き上がった。昼間はあんなに元気で屈託無げにしていた妹が目の前でうなだれている。少し震えてさえいるようだった。
「大丈夫?」
妹は答えずに首を振った。その様子を見ていた紀伊の中に不意にどうしようもなく哀憐の情が沸き起こってきた。

紀伊はそっと身を乗り出すと、妹の体を抱きかかえた。妹がはっと身じろぎするのが感じられたが、紀伊は離さなかった。
「何も言わないで。私にはこうしていることしかできないけれど、あなたの不安を少しでも除ければそれでいいから。」
讃岐の体から力が抜けてそっと紀伊の頬に頭がもたれかけてきた。しばらく二人はそうしていた。
「私って・・・バカですよね。」
不意に讃岐が言った。
「姉様を助けるどころか、こうしてご迷惑をおかけしてばっかり・・・。情けない妹だってそう思いますよね?」
「いいえ。私も最初はそうだったもの。どうしようもなく怖くて怖くて震えていてばっかりだった。」
紀伊は一番最初のことを思いだしていた。第6駆逐隊の4人と共に横須賀鎮守府を出立して呉鎮守府に旅立った時のことを。
(あの時はいきなりの実戦で、本当に怖かったわ。無我夢中だった・・・・・。)
「今も怖いわ。今まで何回も実戦を経験したけれど、慣れることはないの。でも、それが人間として普通だと思う。」
(人として、か。ここに来る前に近江に言われたことは、私にはとてもショックだった。でも、近江は私に気づかせてくれたわ。最初の境遇がどうあれ、その後の歩みは人それぞれ。そこでどのように育つかは本人次第なのだと。)
紀伊は妹の長い髪をそっと撫でた。
「あなたはあなたらしくいてくれればそれでいいの。」
 その言葉には
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