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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百三十一話 後継者
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かねない。
「……なりたいとは考えています。しかしルビンスキー自治領主閣下を追い落としてまでなりたいとは考えていません。自分はフェザーンの混乱を望んではいません」
なりたいと言った。それなりに野心と自信の有る男なのだろう。
「なるほど、ボルテック弁務官は野心と節度という相反する二つをお持ちのようじゃ。なかなかの人物じゃな。そうは思わんか」
リヒテンラーデ侯がボルテックを評した。額面どおり取れば高評価といって良いだろう、しかし侯の口調には温かみなど欠片も無かった。だがボルテックは耐えている。顔は強張っているが、落ち着いているし目には強い光がある。胆力もあるようだ。
「そうですね、私もそう思います。元帥はいかがです」
「同感です。しかし、残念ですがボルテック弁務官が自治領主になることは有り得ないでしょうね」
穏やかな口調だ。しかし、その言葉は部屋に響き沈黙が落ちた。息苦しいほどの緊張が場を包む。ボルテックは覚悟を決めたのだろう。挑むような視線でヴァレンシュタイン元帥を見ると口を開いた。
「何故でしょう。それは私に能力が無い、そういうことでしょうか?」
「弁務官自身の問題では有りません。ですが二つの理由で貴方はフェザーンの自治領主にはなれないでしょう」
元帥の表情は変わらない。穏やかで微笑を浮かべたままだ。
「その二つの理由をお教え願いませんか」
ボルテックも口元に笑みを浮かべながら言葉を発した。だがヴァレンシュタイン元帥に向けられた視線は強いままだ。
「一つは私がフェザーンの自治を認めるつもりがないからです。私の願いはフェザーンを滅ぼし、自由惑星同盟をも滅ぼす、宇宙の統一です」
一瞬だが元帥とボルテックの視線が強く絡まった。
「……なるほど、もう一つは」
「ルビンスキー自治領主には意中の後継者がいます。それは残念ですが貴方ではない。それが理由です」
「!」
ボルテック弁務官の顔が歪んだ。もしかすると彼自身その思いがあったのかもしれない。彼は一瞬、眼を閉じた後元帥に問いかけた。
「その意中の後継者とは誰でしょうか」
「……ルパート・ケッセルリンクです」
その瞬間ボルテック弁務官は口を歪めて反論した。何処と無く嘲笑の気配もある。
「元帥閣下、ルパート・ケッセルリンクは未だ二十代前半です。自治領主閣下が彼を後継者になど有り得ません」
「彼がアドリアン・ルビンスキーの息子だといってもですか」
「!」
ボルテックの顔が今度は驚愕で歪んだ。ヴァレンシュタイン元帥は幾分せつなそうな表情で話を続ける。
「昔、ある若者が居ました。能力も、野心も有る男だった。貧しい家の娘と付き合っていましたが、ある時彼の前に大富豪の娘が現れた。彼は貧しい娘を捨て、大富豪の娘を選んだ……」
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