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硯の精
第二章

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「それ自信持ったらいいわよ」
「そうなの?」
「そこまで自信ないなら」 
 それならとだ、ここで奈々が姫に言うことは。
「ちょっと人紹介するわ」
「怖い人?」
「怖くないわ、凄くいい人よ」
 姫にこう断りを入れた。
「人格者よ、書道の先生でね」
「書道の」
「興津先生っていうけれど知ってる?」
「大阪におられる十段の」
「知ってるじゃない」
「此花の方におられるって聞いてるけれど」
「実は大学のサークルの娘が親戚で」
 それでというのだ。
「私もその娘から紹介されて知ってるの」
「その興津先生のことを」
「その人紹介するから行ってみなさい」
「興津先生のお家に」
「あんたのその引っ込み思案なおしてもらえるから」
「私は別に」
「そんなに自分否定していいことはないわ」
 それこそ何もというのだ。
「あんた成績私よりよかったし」
「あれはたまたまで」
「いつも勉強してたでしょ、とにかく興津先生のところに行って」
 そしてというのだ。
「その引っ込み思案どうにかしてもらいなさい、さもないとね」
「さもないと?」
「あんた悪い男に引っ掛かったりするから」
 将来そうなりかねないからというのだ。
「お金巻き上げるだけのタチの悪いホストとか暴力振るう駄目男とか」
「そうした人に騙されるから」
「そうよ、そういう奴はあんたみたいな娘をカモにするのよ」
 極端に引っ込み思案でネガティブな娘こそというのだ。
「甘い言葉で釣ってね、だから」
「今のうちになの」
「それなおしなさい、いいわね」
「じゃあ」
「何なら私も一緒に行くから」
 友人として、というのだ。
「いいわね」
「じゃあ」
 姫は奈々の言葉に頷いた、そしてだった。
 奈々についてきてもらって此花区にあるその興津という先生の家まで来た、そこは書道教室もやっている昔ながらの日本の家だった。
 その家の門を潜って中に入るとだ、奇麗な和風の玄関で藤色の着物を着た七十過ぎだが背筋のしっかりとした白髪の老婆が迎えてくれた。
 その老婆を指し示してだ、奈々は姫に言った。
「この人が興津先生よ」
「興津静子よ」
 優しい微笑みでだ、老婆も名乗った。
「お話は聞いてるわ、呉島さんから」
「そうですか」
「八神姫さんね」
「はい」
 人見知り故のおどおどする感じでだ、姫は先生に答えた。
「そうです」
「そうなのね、それじゃあ早速ね」
「お話ですか」
「いえ、書いてもらうわ」
 こう姫に言うのだった。
「今は生徒さんは誰もいないし」
「だからですか」
「ええ、書をね」
「書道ですか」
「貴女書道五段ね」
「はい」
 姫は先生の問いにこくりと頷いて答えた。
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