52.第三地獄・幽明境界
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(イグニスファトゥス)の爆発が伴わないものと考えてくれればいい。過剰な魔力が全身に滞留してすぐさま意識を失うだろう。だが、過剰回復された分の魔力を全力で放出し続ければ倒れることはない」
「つまり、飲んでしばらくは『絶対零度』を魔力限界を超えて際限なしに使うことができる?」
「ああ。だがこれは継続回復と瞬時回復に俺の血を挟んだ急場しのぎの強引な手段だ。放出量が間に合わなければ即座に自滅する。だからお前は飲むと同時に全力で黒竜を凍らせ続けろ。節約など考えるな。仲間のことも無視しろ。このフロアを永久氷壁に変えるつもりでやれ」
現在の黒竜の熱量は、存在そのものが炉だ。アダマンタイトクラスの金属も数秒触れているだけで融解を始めるだろう。当然金属製であるオーネストの剣も例外ではない。一瞬の接触では問題なかろうが、2度3度と叩き込むほどに刃は熱を持ち、その強度は加速度的に低下してゆく。おまけに下手な盾より遥かに強度が高い鱗はそのままになっている以上、あの炎をどうにかしなければ攻略は難しい。
「現在この場で状況を打破する可能性を持つのは、お前だけだ」
「……ふふっ、偶然やってきたわたしが偶然身に着けた氷の魔法が今日に役立つなんて、不思議だねアキくん。これも運命ってやつなのかな?だとしたら、利用できる流れは全て利用すればいい。大丈夫、わたしは勝利を呼び込むエピメテウスの『酷氷姫』で、アキくんの幼馴染だもん!」
根拠のない自信に満ち溢れた彼女の表情に、オーネストは言いようのない不安のようなものを感じる。アズに背中を任せたときは絶対的な安心感があったが、彼女にそれは感じない。しかしそれは彼女の信頼や実力を疑ってのことではない筈だ。むしろ彼女は誰よりも信頼できる相手だ。彼女なら成功させるだろうという確信もある。
なのに、どうして俺の心はこうも揺れている。
オーネストはその笑みに何かを言おうとして、しかし何を言えばいいのか分からないまま頭を掻き、ポーションの瓶の蓋を折ってリージュに差し出した。彼女はどこまでも屈託のない笑みで、一歩間違えば劇薬になりうる薬を躊躇いなく飲み干した。
「……アキくんが何考えているのか、私はなんとなくしか分からない。けど私はアキくんが頼ってくれた自分をどこまでも信じているから。だから、そんなに不安そうな顔をしなくても大丈夫だよ」
「――ッ、俺は……」
俺は、そんなにも不安そうな顔をしていたのか。そう問うより前に、リージュの纏う冷気が爆発的に膨張する。そして俺の隣から姿をかき消し、黒竜へと疾走した。その動きには魔力を持て余した様子も躊躇いも一切感じられない、美しい動きだった。
「俺は………俺はいつ死んだって後悔はない。だから不安を感じるような『未来を求める』感情はない………筈なんだが
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