52.第三地獄・幽明境界
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ようなそれを見て――オーネスト・ライアーは自問した。
この鎖を、俺は引き千切っていいのだろうか。
『千切れ、俺には関係ない』
『千切るな、それはお前が欲したものだぞ』
『捨ててしまえ。それでお前は半端ではなくなる』
『護り通せ。それがなければ永遠のしがらみから抜け出せない』
『選べ』
『選べ』
『『選択せよ、オーネスト・ライアー』』
オーネストは鎖に手をかけ、震えながら力を籠め――やがて諦めたように「くそっ」と呟いて、自分の手に握られてたい駒を竜の駒の真正面に据えた。
『グダグダ悩むのは俺の性分に合わん。面倒だから、悩みの原因になってるこの邪魔な駒から先にぶち壊してやる』
オーネスト・ライアーは、その選択の意味をまだ知らない。
= =
こんな事ならば上の安全層にいるうちに手を打っておけばよかった――と思わなかった訳ではない。黒竜があれほどの炎を纏うことは確かに予想外だったが、万が一に備えるならば「その程度の備えはあってしかるべき」だった。もっとも出発前の時点ではリージュが来ることも完全に予想外だったことを考えると仕方ないともいえる。
俺は手甲を外して自分の爪で指先を切り裂き、リージュに顔を向ける。
「舌出せ」
「べー」
アズとユグーの命を削る死闘とはあまりにも不釣り合いな光景は、炎のせいでココたちの場所からは見えない。
それにしても小さな口を精一杯に開けてピンク色の舌を出すリージュのなんと子供っぽいことか。出すだけならべーなんて言わなくていいだろうに、しかもなぜこの状況で舌を出す必要があるのかを一切聞いてこないのは如何なものか。しかし今はそんなことを指摘している場合ではない。
(昔はあんなに使うのを嫌っていたのにな……)
それはオーネストが人生で数える程しか使ったことのない力。切り札ほどではないが、ずっと使うことを忌避していたそれを黒竜打倒の為に使う。自分のためだと思えばひどく嫌気がさしたが、自分以外を生かすためと思うと不思議と仕方ない気がしてくる。
唾液で微かに濡れたリージュの舌に、血が滲む指を当てて文様を描く。ほんの2秒ほどで文様を書き終えた俺は「もういいぞ」と声をかけ、アズから受け取ったポーションを取り出した。俺が基礎を教えた薬学で作られたそれは、質の点では申し分ない。
血の描かれた舌を仕舞い込んだリージュは既に俺が何をしたのかを察しているだろう。この血の「秘密」を知る存在は殆どいない。アズも察してはいるが詳しくは知らないだろう。ある種の反則技でもあるが、使えるものを使うことに間違いなどありはしない。
「いいか、このポーションを全部飲み干すとお前の魔力は舌に塗った血の印に反応して過剰回復を起こし、暴走する。魔力暴発
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