52.第三地獄・幽明境界
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ちに気付いたんだ。運命を変える方法に』
『そんな都合のいい舞台装置は存在しない。世界はなるようになり、なるようにしかならない。仮にそれがあったとして、俺にその方法は実践できない。する意味も価値もない』
『君がそう思っている限りは、確かにそうなんだろう。それもまた事実だ』
8年前の少年は、おぼつかない足取りでゆっくり遠ざかっていく。
8年後の青年は、それを黙って見送った。
青年の手元には、チェスのそれに似た駒が握られている。見たこともない形で何の役割を持つのかも不明で統一性のない出鱈目な駒。そのうちのいくつかを、青年は無造作に拾い上げた。
十字架を背負った死神。蛇の首飾りをした巨人。そして、刀を握った女剣士。
『………………』
くだらない、と放り投げた。かつん、と乾いた音を立てて駒が床に散らばる。
視線を前にすると、今度はチェスどころか置物ほどのサイズがある竜の駒が鎮座していた。
駒は少しずつ進んでいた。このまま進むと、駒は放り捨てた3つの駒を弾き飛ばしてしまうかもしれない。そう思ったが、だからといって駒を拾って避けさせたりする理由はない。
しかし、ふとその駒を見るといつの間にか立ち上がっていた。そして巨大な黒竜の駒に向かい合っている。どう見ても無謀で、とてもではないが勝ち目はない。せめてもうひと押し、この小さな駒たちを助けられる何かがあればこの巨大な力に抗うことはできるかもしれない。
その一押しが出来る駒は、青年が握っていた。
『………………』
ふと、駒を見ていて思い出すものがある。半端で惰弱な自分の近くを、頼まれてもいないくせにうろうろする連中。偶然出会った生まれる前の記憶を共有できる存在。切り捨てたはずの絆。切り離せな絆。切ることをしなかった絆。一つ一つが鎖となって、駒から伸びて青年の手足に絡みついている。
青年はそれを引き千切ろうと手足に力を籠め――また、記憶を垣間見る。
『晩酌の話し相手が眼を離した隙に勝手にくたばるのはこの俺が許さん。――俺に生かされてろ、馬鹿一号』
『今日からこの薄汚ねぇ屋敷でメイドとして働くことにした!!』
『オーネストの世話を、これからもよろしくお願いします』
『あ……き、くん……。わたし、進まなきゃ――』
『秘密主義か?似合わねぇな、キザ野郎………勝手にくたばんじゃねぇぞ』
『一度だけでいい、来てくれ……二度目を逃したら、ボクは今度こそ自分が嫌いになってしまう……』
とびきりの同類やらそうでないやら、よく見る顔の連中の様々な顔が脳裏を駆け抜けてゆく。まるで鎖から伝わってくるようなそれがどうしてか暖かく、そしてひどく脆い気がした。引っ張ればそのままぱきりと割れてしまう
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