六十四話:Zero
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心から愛して、傍にいられて、本当に幸せだった」
「僕も幸せだった。……でもね、僕は…誰もが幸せな世界を創る事は……出来なかったんだよ?」
偽りなど欠片もないと分かる無邪気な笑みを向けるアインス。だが、切嗣の方は少し自信無さ気に小さな声でなおも問いかけた。そんな夫にアインスは困った人だと笑い優しい言葉を返す。
「お前の理想は叶わずとも誰よりも尊いものだ。それに世界は創れずとも―――正義の味方にはなれただろう?」
「……うん、そうだね。僕は正義の味方になれたんだ」
誰もが幸せになって欲しいという願いは叶えられなかった。だが、それでも正義の味方になりたいという願いは叶えられた。それで十分ではないか。
「正義の味方になれた……それに何より―――君が最後まで傍に居てくれた」
これ以上の幸せを望むのは罰当たりだろう。何より、自分にはこれ以上の幸せを思いつかない。失うばかりの人生だったというのに最後の最後まで隣に愛する人がいてくれた。何という幸福だろうか。
「ありがとう、アインス。―――君を愛せて本当によかった」
「ああ……私もお前を愛せてよかった」
その言葉を最後に二人は世界の崩壊に呑まれて消えていったのだった。
廃墟の中を探し人を求めて彷徨い歩く。固有結界から抜け出た後に合流したなのはや騎士達と共にはやてはこちらに戻ってきているはずの切嗣を探す。生きている可能性は万に一つもない。だが、それでも探さずにはいられなかった。
「主はやて、あちらの方に匂いが」
「ほんま? お手柄やザフィーラ!」
獣状態のザフィーラが微かに残る匂いを嗅ぎ当て走り出す。その後ろからヴィータを背負ったシグナムが歩いていき、さらに後ろをシャマルに支えられたはやてがその続く。
「これは……」
一足先に探し人の姿を見たザフィーラは小さく声を零す。遅れて辿り着いたシグナムとヴィータもその光景に何も話すことができずにただ黙って見つめていた。そして、最後に到着したはやてとシャマルも声を失う。
「………あほ」
見つけた二人は予想通り既に息絶えていた。しかし涙は出てこなかった。ただ、その光景の美しさと温かさに不思議な笑みが零れるだけだった。
「そんな幸せそうな顔して死んどったら文句の一つも言えんやん……」
彼らが見たものは瓦礫にもたれかかり肩を寄せ合う夫婦の姿だった。まるで眠っているように穏やかに瞼を閉じ安らかな笑みを浮かべる二人。その姿から分かることはただ二つ、思い残すことなどないということと―――二人の愛が確かなものであったということ。
「おやすみな……おとん…アインス」
男は正義の味方になりたかった。
誰もが平和な世界
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