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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百三十話 闇に蠢く者
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り止めになったのです」
元帥は苦笑している。あの時元帥は純粋に好意からローエングラム伯の参謀長に私を推薦した。まさかその事が闇の左手の存続に繋がるとは思わなかったのだろう。
「閣下に関する文書も一度廃棄されました。あの文書の内容を知っていたのはグリンメルスハウゼン子爵と陛下だけです。そして陛下から改めて調査の命が下りました」
「ブラウンシュバイク公が調べていたからですね。あの馬鹿げた噂を」
元帥は苦笑をさらに深め、私に問いかけた。
「そうです。ブラウンシュバイク公は元帥閣下と陛下の血縁関係を疑っていました。我々も調べましたが結局判りませんでした。あれは本当なのですか?」
「まさか、嘘ですよ、そんな事は。私はエーリッヒ・ヴァレンシュタインです。それ以外のものではありません」
元帥はとうとう笑い出した。どうやら本当に嘘のようだ。少なくとも元帥は嘘だと思っている。
「もう一つ、元帥閣下を欺いていた事があります」
「……ギュンターの事ですか」
「御分かりでしたか。閣下の仰るとおり、ギュンター・キスリングは闇の左手です」
「ギュンター・キスリングがアントンとオーベルシュタインの接触に気付かなかったのは、例の馬鹿げた噂の調査に気を取られたからでは有りませんか?」
私が頷くと元帥は笑いを収め真面目な顔になった。
「どうやら、私の周りには油断も隙も無い人たちが集まっているようですね。やれやれですよ、だんだん性格が悪くなっていくようです」
肩をすくめてそう言うと元帥はまた笑い出した。元帥の言葉に苦笑しながら、ふと思った。元帥は何処かで騙される事を望んでいたのではないか、楽しんでいるのではないかと。そう思うくらい元帥の笑い声は明るかった……。
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