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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百三十話 闇に蠢く者
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伯爵夫人を取り返せない。
「私はローエングラム伯は暗殺といった手段は取らないと思っていました。彼は私を超えたいと思ってはいても、殺したいとは思っていない、そう考えていたんです。だから心配は要らないと」
「……」
「しかし、グリューネワルト伯爵夫人が絡めば話は変わる。あの二人の伯爵夫人への執着は普通ではない、そうは思いませんか?」
「確かに」
確かに元帥の言う通りだ。ローエングラム伯、ジークフリード・キルヒアイス准将、あの二人のグリューネワルト伯爵夫人への執着は尋常ではない。結局、その執着が元帥とローエングラム伯の決裂を決定した。
ローエングラム伯もジークフリード・キルヒアイス准将も伯爵夫人に対して罪悪感を抱いているのだろう。伯爵夫人を犠牲にすることによって、自分達が栄達する事になったと。伯爵夫人の犠牲の上に自分たちの栄達があると。
弱いから姉を後宮に連れ去られた。弱いから伯爵夫人を解放できない。あの二人にとって伯爵夫人が後宮に居る事は自分たちの弱さの証明でしかない。あの二人が武勲に出世に拘ったのはそれが原因だろう。少しでも早く強くなり姉を解放する……。
オーベルシュタインがあの二人のそんな想いに気付かないとは思えない。彼があの二人の耳に何を吹き込むか……。
ヴァレンシュタイン元帥が居る限り伯爵夫人が解放される日は来ない……。この内乱を機に元帥を暗殺し、軍の実権を握る。そうすれば伯爵夫人を解放できる、ローエングラム伯の皇帝への道も開ける……。
耐えられるだろうか、その誘惑に。ローエングラム伯、キルヒアイス准将は耐えられるだろうか。日々健康になっていくように見える陛下と日々その地位を磐石な物にしていくヴァレンシュタイン元帥……。
「元帥閣下、やはりここは……」
「ケスラー提督、未だ時間は有ります。今ここで決めなくてもいいでしょう。私も多少、考えている事があります」
「元帥閣下、何故ローエングラム伯を庇うのです。前から不思議に思っていたのですが」
「庇ってなどいませんよ」
元帥は苦笑とともに言葉を出した。元帥は昔からローエングラム伯に好意的だった。周りから見てもおかしなくらい好意的だったと思う。あの事件で決裂しても、決定的に対立する事を避けてきたように見える。
元帥ならいつでもローエングラム伯を排斥できたはずだ。だが、私が知る限り元帥がローエングラム伯を排斥しようとしたのは一度だけだ。それも一瞬の事で、私のほかに知るものはロイエンタール提督だけだろう。
イゼルローン要塞失陥の責めを負わせて軍から追放することも出来ただろう。しかし現実には、元帥の口添えにより宇宙艦隊副司令長官に就任している。ローエングラム伯に遠慮しているとしか思えない。
私が納得していない事に気付いたのだろう
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