第6章 流されて異界
第147話 温泉にて
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はどの程度の物なのか定かではない。多分、そう悲観的に捉える必要はないと思うが、それでも彼女が求めて居る俺は、今の俺ではないのでしょう。そのギリギリの違和感が、彼女と俺の間で溝と成っている。
しかし、弓月や高坂の家の方での評価は想像に難くない。
今回のこの高坂の地で起きたアラハバキ召喚事件の顛末は、両家とも既に知っている。当然、その中で俺と弓月桜の果たした役割についても。
両家とも、この高坂の地に施された反魂封じの呪を過信し過ぎていた事は間違いないでしょう。その絶大な信頼を置いて居た呪が破られ、その挙句に封じられて居た蛇神が顕現したにも関わらず、見事に再封印が為されたのです。
もし、この両家がかつての……術に繋がる古い家としての復活を夢見るのなら、俺のような存在は咽喉から手が出るほど欲しいはず。其処に弓月桜の感情は一切考慮される事はない。
野良の術師と言うのは非常に珍しい。確かに俺は水晶宮に属してはいるが、親類縁者の類は、一九九九年に起きた地脈の龍事件の際にすべて失っている。
表面上は科学万能の世界……と思わせて置いて、見えない部分には未だ術や妖が蠢く世界が存在している。ここはそう言う世界。
ここに……世界の裏側には、個人の感情や意志などが入り込む隙間など存在する訳がない。
「みくるちゃん。そんな細かい事をいちいち気にしていたら負けよ」
男湯の方では、何やら難しい顔で色々と考え事をしながら身体を流していると言うのに、非常に能天気で、更に意味不明な内容の言葉が女湯の方から流れて来る。……と言うか、そもそもこの場合、何が勝ちで、何が負けなのかさっぱり分からないのだが……。
まぁ、弓月さんに関しては、これから先に彼女の方から積極的に関わって来る可能性が高くなった。そう結論付けても問題はないでしょう。
彼女の目的が俺の前世の記憶の復活ならば、積極的に関わる方が想い出せる可能性は高くなる。そして、それが家の目的と合致するのなら、そこに躊躇う理由はない。
……はず。
普通の男性。おそらく、十人の内、八人から九人までなら、俺の立ち位置はうらやましいはず。所謂、矢印みんなこっち向き、と言う状況に見えるから。
しかし、本当にすべての矢印が俺の方を向いて居るのか、それとも現在の俺を素通りして、ここには居ない誰か別の人間に向かって居るのか、それが俺には分からない。その部分が、今の俺が現在の自分の立場に感じて居る危うさ……と言う事。
その部分がはっきりと分からなければ。少なくとも、その部分を考え続けて置けば、浮かれて、我を見失い、結果、歴史上に名前を残す英雄たちと同じ末路を辿る心配だけはない……と思う。
何故ならば……。
有希は俺ではなく、今年の二月に出会った頃の俺を見ている。確かに、彼女の言葉
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