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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百二十九話 毒
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て聞いていた。
「閣下、閣下は何故オーベルシュタインを宇宙艦隊に登用しなかったのです? 閣下なら彼を使いこなせたのではありませんか?」

あるいは無礼な質問なのかもしれない。今の問題を引き起こしたのは貴方なのではないかと問いかけているようなものだ。しかし、元帥は怒らなかった。自分の考えを確かめるような口調でゆっくりと話し始めた。

「彼は毒なのです」
「毒、ですか」
「ええ、長い間使っていると、いつか自分自身がその毒に侵されてしまう。そして、その毒で周りを傷付け殺してしまう、そんな怖さがある」

なるほど、毒か。確かにそんなところはある。しかし毒とは……。
「閣下、彼の持つ毒とは何でしょう」
元帥は視線を逸らせ少しの間沈黙した。

「……ケスラー提督、何故彼はローエングラム伯のところに行き、私のところに来なかったと思います?」
私の質問は質問で返された。そこに答えがあるということか……。

オーベルシュタインがローエングラム伯の配下になった当時、宇宙艦隊を実質的に支配していたのはヴァレンシュタイン元帥、当時は大将だった。オーベルシュタインにそのことが分からなかったとは思えない。それなのに何故、彼はローエングラム伯のところに行ったのか?

順当に考えれば、元帥が自分を登用しない事が判ったので諦めた、そんなところだろう。しかし、元帥の今の問いからすれば答えはそんな単純なものではないようだ。少なくとも元帥はそう考えている。

「閣下が自分を登用する意思が無い。そう判断したというわけではないと、閣下はお考えですか?」
ヴァレンシュタイン元帥は頷くと呟くような口調で話し始めた。

「私と彼では目的が違うのです」
「目的、ですか」
「ええ、私は帝国を変えたいと思った。しかし、彼は帝国を、ゴールデンバウム王朝を滅ぼしたいと思ったんです」

「!」
「だから、私のところには来なかった。彼にしてみれば、私はゴールデンバウム朝銀河帝国の存在を容認している、その一点で受け入れられなかった……」

思わず息を呑んだ。大胆な発言だった。ヴァレンシュタイン元帥の言う通りならオーベルシュタインは謀反を企てている、そういうことになる。

「私も彼も肉体的に欠陥があります。私は虚弱と言ってよく、彼は先天的に眼が見えず義眼を使用している」
「……」

「ルドルフ大帝の時代なら、私達は二人とも劣悪遺伝子排除法によって殺されていたでしょう」
「待ってください、オーベルシュタインはともかく閣下は……」

「殺されていましたよ。あの時代、弱いという事は罪だったんです」
「……」
ヴァレンシュタイン元帥はやるせなさそうに吐いた。確かに彼の言う通りかもしれない。

「晴眼帝マクシミリアン・ヨーゼフ二世陛下が劣悪遺伝子排除法
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