渡り鳥が忘れた、古巣【A】
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けど」と、切りだした。三人は、期待に、目を膨れました。「商事会社の、内々定を貰えた」と、泰弘が言った。「万歳。やった!」と、栄吉が、両手を上げ叫んだ。キクとヨネと直子は、拍手喝采だった。五人の顔は、喜びで溢れていた。「正式の内定は、来月の四月だ」と、泰弘は付け加えた。「報告が、もう二つ・・」と、泰弘が言い掛けると、栄吉が、割って入って、先に、話し始めてしまった。「これを期に、二人は結婚したら?」泰弘と直子は、唖然として、互いの顔を見合った。栄吉が、ヨネの顔を見た。ヨネは、微笑みながら頷いた。キクも、優しく、笑みを浮かべていた。既に、三人の合意は、出来上がっていたのだ。「嫌か?」と、栄吉が聞くと、二人は即座に、首を横に振った。泰弘が、か細い声で、照れ臭そうに「あのー、未だ、話が有るのだけど」と、言った。「何?」と、栄吉が聞いた。「俺達、もう結婚しているのだけど。ナオのお腹には、子供がいる」と、泰弘が言い、直子も、照れ臭そうに、俯いていた。三人は動転して、一瞬、言葉を失った。間を置いて、三人の顔が、満面の笑みに変わった。「やったー!」と、言って、栄吉は再度、万歳をした。ヨネとキクは「おめでとう」と、涙目で言って、二人で、直子のお腹を、擦っていた。「ヨネ婆ちゃんに、キク婆ちゃんに、栄吉爺ちゃんか!我が家は春満開だ」と、言って、栄吉は喜んだ。「婚姻届を出した時、直子が、栄吉さんとキクさんの、養子である事を、俺もナオも、始めて知ったよ」と、泰弘は、栄吉に言った。「自分達夫婦には子供が居ないので、欲しかった。始めは泰弘を、養子にしたいと思ったけど、泰弘には、ヨネさんと云う、立派な実母がいる。それは、叶わない事だと悟った。キクの遠縁に、子沢山の家があると聞き、直子を、養子に迎えたのだ。直子は優しい子で、今は幸せだ。これで法律的に云っても、全員、真の家族だ」と、栄吉は嬉しそうに、物静かに話した。泰弘の胸に熱き物を感じた。「婚姻届を出す時に、俺は、姓を安藤にした。母さん、良いだろう」と、泰弘が言った。「この古民家は安藤家です。同じ屋根の下に暮らす家族は、安藤家が当然です。私も、安藤家の家族であり、貴方の実母で或る事は、変わりありません」と、ヨネは静かに言った。泰弘の脇に居た直子が、涙声で「有難う」と、言った。彼女は、部屋に戻り、タンスの引出しから、婚約指輪を持って来た。三人に見せた。ヨネが「凄く綺麗」、キクが「ヤッチャン、偉い」と、言った。栄吉が「泰弘、直子の指に、填めてみたら」と、言ったので、泰弘は、直子の左手の薬指に、填めた。三人が拍手した。直子は、幸せの絶頂だった。四月に入り、泰弘の就職の、正式な内定が届いた。結婚式は、泰弘が、商事会社へ勤務してから行う事を、安藤家全員の合意で、決めた。
泰弘が、四年生に成った頃から、栄吉の縫製工場は、米軍基地の整理縮小や、安い韓国製
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