渡り鳥が忘れた、古巣【A】
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は、口紅を差す程度だった。栄吉は、縫製工場から、傷が付いて出荷出来ない衣類を、直子に与えていた。彼女は喜んで着用し、余りの品を給料と共に、実家の家族に送っていた。泰弘は、そんな彼女を敬服し、ヨネや栄吉夫婦に、甘えるだけの自分が、情けなかった。一方、直子も泰弘は、頭の良いイケメンの大学生で、憬れ(あこがれ)だった。若い二人は、互いに「泰ちゃん(ヤッチャン)・直と、呼び合う様になり、学問の無い直子は、何時も泰弘に教わり、レコードに合せ、二人でダンスをしていた。それを、大人達も、二人を微笑ましく見ていた。
引越しをして間もなく、白い母猫が、三匹の子猫を連れて、古民家に現れた。直子は猫に餌を与えた。翌日も翌々日も、母猫は、子猫を連れて現れ、次第に野良猫達は古民家に住み付く様になった。猫好きの安藤家の人達は、野良猫達を快く受け入れ、各々の猫に名前を付けた。母猫の白い猫にはホワイト、子猫の三毛猫にはミックス、子猫の虎猫にはイエロー、子猫の灰色猫にはグレーと云う、名前が付いた。時が経つに連れて猫達は、主として甘える人物を、特定する様になった。母猫のホワイトは栄吉、子猫のグレーはキク、子猫のイエローはヨネ、子猫のミックスは直子に甘え、一緒に寝た。
直子が、安藤家に来てから最初のクリスマスに、泰弘は直子に、クリスマスプレゼントを渡した。それは、泰弘が安藤家の縫製工場に行き、自分で作った、紺地色に黄色の文字を刺繍した、ワンピースだった。突然の泰弘のプレゼントに、直子はビックリして「ヤッチャン、有難う、有難う」の、連発だった。刺繍は、胸に黄色の英字で大きくEKYYNと縫われ、英字の下には、左から白い母猫を先頭に、子猫の灰色猫・虎猫・三毛猫が、プリントされていた。直子は泰弘に、EKYYNの意味を聞いたら、Eは栄吉のE、KはキクのK、YはヨネのY、Yは泰弘のY、Nは直子のNだと答え、風水に依ると、黄色は[喜び、明るさ、明朗、愉快]を表す色で、青色は[冷静沈着]を表す、知性の色だと教え、ワンピース作りには、栄吉夫婦やヨネにも、協力して貰った事を、話した。子沢山の貧乏農家に育った直子には、クリスマスプレゼントは生れて始めてだった。直子の目には、涙が溢れ、幸せ感で一杯だった。栄吉夫婦が、ビング・ロスビーのホワイトクリスマスの曲に乗って、ダンスを踊り始めた。猫達も首を傾げ、栄吉夫婦を見ていた。静かな、安藤家のクリスマスイブだった。
大学の二年生に成り、泰弘は、得意の英語力を生かして、進学塾の英語教師のアルバイトを始めた。それは、せめて自分の小遣いは自分で稼ぎ、ヨネや栄吉夫婦に、負担を掛けたく無いとの、考えだった。直子は、毎日、四人分の弁当を作った。相変らず直子の料理は、自ら作った野菜が主体の田舎風だった。彼女は最近、養鶏や花づくりも、始めた。猫達は雛に、興味津々(きょ
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