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渡り鳥が忘れた、古巣
渡り鳥が忘れた、古巣【A】
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数時間だったので、彼は充分、農作業に従事する時間が有った。議員報酬は高額でありながら、自らの飲食を、公費に回したり、視察旅行と偽って、公費で旅行するのは慣習だった。二人は「インフラを利用するか否かは、住民の自由にして欲しい」と、陳情した。彼は、選挙前とは一変し、上目使いの議員先生に成っていた。成金議員は「今回のインフラは自分が、地元の発展の為に遂行した事業だ。それに真逆の内容で、関係部署に進言するのは、自分の立場もある。水道課に工作するには、費用も掛かる」と、高飛車な態度で、暗に政治献金を求めた。直子は金銭を包み「宜しく、お願いします」と、言って成金議員宅を後にした。帰り道、二人は、国の補助金で造られた、大規模なビニールハウスの脇を、通過した。次に、市が税金で造成した、工業団地の傍を通過した。直弘は[この国は、未だ、封建時代の士農工商(武士→公共団体の役人・農民→補助金農家・職人→工業団地の工場・商人→店舗経営)が、残っている]と、思った。成金議員への陳情以後、市の職員は、安藤家に現れなく成った。農家専門に上下水道の施工していた博史の実家は、市
の指定業者では無く、上下水道工事の入札には、参加する資格が無かった。その上、都市ガスの敷設により、本業のプロパンガス販売も、顧客が激変し、窮地に追い込まれた。博史の実家は、親族会社だったので、家族が一丸に成って、この苦境を、耐え忍んでいた。次に成金議員は、農道の舗装化に、着手した。結果、農耕車優先の舗装農道は、本通りからの、一般車両の抜け道(近道)に成り、農道にトラクターを停めて置いても、通行妨害の警笛を、一般車両から貰い、農民から悪評を買った。「泥まみれの農耕車には、舗装農道は必要ない。一般車両の農道への進入は、俺達の農作業の妨げだ。市に予算が余っているなら、農道の舗装ではなく、俺達の屋敷の中庭を、舗装して欲しい」と、皮肉交じり批判が、農民から続出した。成金議員は、地元の農民
からも、次第に支持を失っていった。腹黒い成金議員は、各々の工事の入札に便宜を謀り、業者から、献金も受けていた。
その年の夏、中規模の直下型地震が、この市を襲った。市内の住宅は、半壊程度が大半だったが、インフラの被害は多大だった。電気は、直ぐに復旧したが、都市ガスと水道の断水は、可なりの時間を要した。多数の職員を抱えている市役所だが、部署間の連携が、全く作動せず、給水車の手配に相当な日数を要した。一方、ボランティアの人々の行動は機敏で、仲間同士の携帯電話で、市内の井戸の所在を調べ合い、井戸水をポリタンクに詰め、自分達の車で、被災した市民に届けた。博史の実家には、仮設のプロパンガスのボンベと、コンロの依頼が、殺到した。実家の倉庫には、都市ガスの敷設で、不要と成ったボンベとコンロが、相当数、山積みされていて、今回の地震被害に、大いに役立った。
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