渡り鳥が忘れた、古巣【A】
[16/19]
[1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
しく感じていた。
高校に入っても、彼等は吹奏楽同好会を結成して、交流を深めた。由実子は奨学金を貰い、定時制の夜間高校に通った。進学校の直弘に、キクは、昔、進駐軍の米兵専用のレストランで覚えた英語を、教えた。高校を卒業して直弘は大学に、少年達は各々の仕事に就き、定時制の由実子は高校四年生になった。その頃、市の議会選挙が公示された。首都圏のドーナツ化で、土地成金に成った農家の親父が、市議会選挙に立候補した。彼は、市街化地域の周りに、多数のアパートを保有していた。中には、市の職員の独身寮として、市に貸出している物件も有った。彼は支持者を伴い、立候補の挨拶に、祝儀袋を持って、安藤家を訪れた。選挙用パンフレットは、金の掛かった立派な物だった。パンフレットと祝儀袋を持って、地元を個別訪している様子だった。初立候補の彼は無学で、選挙には無知だった。安藤家の玄関広間で、彼は終始低姿勢だった。血気盛んな年代の直弘が、世界情勢や、日本の政治に関して、質問しても、彼はチンプンカンプンで、全く、答える事が出来なかった。利権絡みの自己誇示が強い、田舎の成金親父に思え、彼の笑みは、仮面を被った笑みの様に感じた。翌々日、同じく初立候補した青年が、一人、自転車に乗って、安藤家を訪れた。名前を[山田 魁]と、云った。持参したのは、自分の主義主張を書いた、手作りの、貧祖な選挙チラシだけだった。青年は、真摯に直弘の質問に全て答えた。彼は、自分の信条を持った、知性の高い人物で、弁護士・税理士・行政書士の資格も持っていた。安藤家全員が「成金候補とは、月とスッポンだね」と言った。10日後が投票日で、資金力が有る成金親父は、最下位で当選、英知で勝っても資金力が無い青年は、次点で落選した。市議会選挙は、金の掛かる選挙の典型だった。成金親父は、当選しても、御礼の個別訪問はしなかった。一方、青年は「自分の力が微力だった」と言い、侘びの個別訪問をした。青年が、安藤家に訪れた際「直弘さんは、英語が、上手だそうですね。キクさんから教わったと、人から聞きました。私は、英語だけが苦手です。今度、教えて下さい」と、言った。直弘が「それ程では」と、頭を掻きながら、謙遜して言った。
直弘が二十歳に成った頃、少年達の中の一人・博史が、由実子と一緒に安藤家に来た。博史は、家業に就いていた。彼の実家は、プロパンガス兼、農家専門の上下水道工事店だった。由実子も、今は、博史の実家で事務を執っていた。二人は、相思相愛の仲に成っていた。「俺達、結婚する」と、博史が言った。安藤家の全員が驚いた。「双方の親も了解済だ。二十歳に成ったから、市役所に婚姻届も出した。由実子は母子家庭だから、彼女の母親と婆ちゃんは、俺の家に同居して貰う。俺の両親も、同意してくれた。俺達、まだ金が無いから、結婚式はしない。後日、金が貯まってからする」と、博史が嬉し
[1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ