渡り鳥が忘れた、古巣【A】
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たが、直子は辞退した。暫くすると、直子の姿が、居間から消えている事に、直弘は気付いた。直弘は家中を探した。直子は自分の部屋に居た。室内は、電気スタンドの灯りだけで、直子は、灯りの下で蹲って(うずくまって)、何かを見ていた。直弘は、静かに近付いた。それは父・泰弘の写真だった。直子の目には、涙が毀れていた。直弘に気付くと、直子は、咄嗟に写真をポケットに隠した。直弘は、直子の手を引いて、居間に戻った。そして直弘は、居間からフィリピンの泰弘に、国際電話をした。「父さん。母さんの写真、持っているだろう。母さんの写真を、父さんの胸に抱いてよ」と、直弘は言った。泰弘は訳も分からず、直弘の、言うが侭に、直子の写真を、胸に押し当てた。「押し当てた?」と、直弘が聞くと「うん」と、泰弘が答えた。「母さんも、父さんの写真を、胸に押し当てて、いるから」と、言い「俺が曲を弾いたら、父さんも、母さんの写真と一緒に踊って」と言い、電話に向かって直弘は、曲を奏で始めた。泰弘は、やっと直弘の言っている事が、理解出来た。「解った」と言い、泰弘は電話に向かって頷いた。直弘がトランペットで奏でた曲は、二人が一番好きな曲の[スリーピー・ラグーン]だった。直弘の幼年期から、二人が常に愛好していた曲を、彼は覚えていた。吹奏楽の仲間が、演奏に加わった。ダンスを終えて泰弘は「ナオ、愛している」と言うと、直子が「ヤッチャン、私も」と言い、互いに「おやすみ」と言って、電話を切った。フィリピンと日本の古民家との、電話を通じての、愛のダンスだった。直弘のサプライズは、皆の涙を誘った。由実子は、皆より一年半遅れて吹奏楽部に入ったが、クラリネットが吹けるまでに、成っていた。「由実子ちゃん、頑張ったね」と、直子が言うと「直弘君から、今日のサプライズに誘われたし、小母ちゃんに、諦めたら駄目と教わったから、私、頑張った」と、嬉しそうに由実子は答えた。「由実子は、高校に行かなくて、地元の会社に、就職が決まったよ。俺達より、頭が良いから、もったいないよ」と、直弘が言った。「仕方ないよ、私の処は貧乏だから」と、由実子が言った。「高校には夜学も有るから、由実子ちゃん、チャレンジしたら」と、直子が言った。「うん、私、頑張ってみる」と、由実子は笑顔で答えた。「小母さんが、第二ボタンを貰ったから、私は、皆の第三ボタンが、欲しい」と、由実子は言った。直弘と少年達が口々に「良いよ。俺達は親友だから」と言い、各自が次々に、ボタンを取り外し、由実子に渡した。「ありがとう、ありがとう・・・」と言って、由実子はボタンを、大切に、自分の財布に入れた。直弘は、泰弘の意向も有って、進学校に進んだが、少年達の高校の進路は、バラバラだった。しかし、卒業後も、親交する事で、皆が、手を合わせ重ねた。その光景を見て、親達は[若いって、良いね。友達って、良いね]と、羨ま
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