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渡り鳥が忘れた、古巣
渡り鳥が忘れた、古巣【A】
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も、雀やカラスや鳩などが、播いた種や、作物などを食い荒らしていたが、彼女は、追い払おうともせず、優しい顔で微笑んで、眺めていた。食事の際の野菜には、何時も、鳥が突いた跡が有るのが、当たり前だった。栄吉が祀られている仏壇の花瓶は、サーダーの空き瓶で、常時、四季の野花が飾れていた。直子は、外出日や直弘の参観日には、以前、クリスマスに泰弘から貰った、紺地色に黄色の文字を刺繍したEKYYNのワンピースを、何時も着ていた。泰弘の昇進と共に、安藤家には余裕が出来たが、直子は相変わらずの倹約家だった。
直弘が中学に入学してから、一ヶ月半が過ぎた或る日、直子は買い物の帰り道、歩道のゴミ箱の中に、自分が雑紙で作り、直弘に渡したノートが、目に入った。隣接している公園の中から、少年達の言い争っている声が、聞こえた。その中に、直弘の声も有った。急いで公園に入ると、五人の少年が、直弘を取り囲み「お前は父無し子、お前の母ちゃん、何時も洋服同じ、ノートはパンプレッとの裏紙」と、罵り(ののしり)、殴り掛かる寸前だった。「やめなさい!」と叫び、直子は、少年達と直弘の間に割って入った。少年達が、持っていた雨傘で直子を叩いた。直子は地面に倒れた。尚も、少年達は雨傘で、直子を数回突き裂いた。かばった腕に、雨傘の先端が、突き刺さった。直子の腕は、血だらけに成った。恐れをなして、少年達は、逃げ出した。直弘は茫然して、その場に立ち竦んだ。丁度、犬の散歩で通り掛かった男性が、警察と救急車に通報した。直子は病院に搬送された。救急車に、直弘も同乗した。知らせを受けたキクとヨネが、病室に、飛び込んで来た。処置を終えた医師が「両腕の刺し傷だけなので、一週間程で退院出来ます。でも、傷跡は残ります」と、キクとヨネに言った。直弘は、病室の隅の椅子に座り、床を見詰め終始、俯いていた。夜遅く、中学の校長と、担任教師と、少年達の保護者が、病室を訪れた。校長と、担任教師と、保護者の皆が、平謝りだった。キクとヨネは、毎日、公園の仕事を終えて、病室に訪れたが、直弘だけは、現れなかった。直子は、自分の節約志向や、泰弘の海外勤務が、直弘の心の重荷に成っている事を、悟った。しかし、フィリピンの泰弘には、心配を掛けると思い、この出来事を、一切報告しなかった。自宅での、保護観察を終えた少年達が、保護者と一緒に、病室に現れた。直子は、微笑みながら「直弘の御父さんは、海外で仕事しているので、中々帰れないの。解って上げて。直弘は寂しいから、友達に成って頂戴」と言って、直弘の年少期に、親子三人で撮った写真を、少年達に見せた。少年達は口々に「小母さん、御免なさい。僕達、直弘君と、友達に成ります」と、言った。直子は「お願いね」と言い、少年達と握手を交わした。
十日程で退院し、直子は、キクとヨネと一緒に自宅に戻った。帰宅途中に彼女は、衣料品店と文具店
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