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艦隊これくしょん【幻の特務艦】
第十五話 横須賀へ
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た音がした。紀伊は殴られた右ほおを抑えて呆然としていた。近江がはっとして手を抑えた。その眼には悔しさと後悔と、そして涙が宿っていた。
「ごめんなさい。でも・・・・。」
近江は今度は紀伊の頬を左手で包むように抑えた。
「どうですか?痛いですよね・・・・。」
「・・・・・。」
「姉様は兵器なんかじゃありません。艦娘です。痛みも感じれば苦しくもなります。そしてあなたの中には熱い血がきちんと流れているんです!」
「・・・・・!」
紀伊は右ほおを抑えた。近江の爪が皮膚を割いて血が薄く流れている。それがまぎれもなく人間の赤い血だった。
「私を好きなだけ罰してください。こんな話をした私を恨んでください。でも、でも!姉様にはすべてを受け入れて、そして前に進んでほしかったから――。」
がばっと紀伊は近江を抱きしめた。近江は泣いていた。声を殺して泣いていた。
「もう、いいわ。わかった。」
不意に胸の中に暖かな気持ちがあふれて来て、ぎゅっと「妹」の肩を抱きしめながら紀伊は言った。
「ありがとう。とてもつらい話だったけれど、聞かせてくれてありがとう。受け入れるのには時間がかかるかもしれないけれど、でも、あなたが乗り越えられたんだもの。私も頑張らなくちゃね。」
「姉様・・・・。」
湿った声が紀伊の肩口を埋めた頭から聞こえた。
「辛い思いをさせて、ごめんね。」
紀伊は近江の髪を撫でた。今この瞬間紀伊は感じていた。今までの道はかけ離れていても、この瞬間から自分と近江は紛れもなく姉妹なのだと。
「あなたがどうであれ、紛れもなく私の妹。そして私をとても気にかけてくれている。それだけで十分よ。そして・・・。」
紀伊は近江から身を離して、微笑んだ。
「私の生きる理由がもう一つできたわ。あなたや讃岐のような素晴らしい妹と一緒にいられることが、とてもとても幸せなんだって・・・・。」
それに、と紀伊はもう一つだけ心の中で呟いた。
(あなたたちを私は命をかけて守り抜きたい、そう思えたから。)

 海上を同航している艦娘たちも大切な仲間だけれど、こうして自分のそばにいる妹もまたかけがえのない存在なのだと紀伊は思い始めていた。あの近江が語った事実はショックであり、今もそれを考えるだけでしびれるような感覚さえ覚えるが、だからといって妹たちへの愛情が薄れることはなかった。
「・・・・・・?」
紀伊の眼が一瞬何かをとらえ、細まった。それが何なのかを理解した紀伊は叫んでいた。
「敵襲!!!」
艦娘たちが一斉に声を上げ、紀伊の指す方向を見た。黒々とした点々が無数に増え、それが徐々に大きなシミとなってこちらに接近してくる。敵の艦載機隊のようだった。だが、まだ時間はある。そう紀伊は判断したが、それはビスマルクも同じようだった。彼女は直ちに紀伊たちに叫んだ。
「来たわ
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