第十五話 横須賀へ
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止めることができなかっただろう。
紀伊と近江は二人で一部屋を使っていた。提督と鳳翔が気を使って近江も航空巡洋艦寮にいられるようにしてくれたのだ。出立前の最後の夜、お風呂から上がってお休みの挨拶を利根たちと交わした二人は部屋に戻ってきた。近江は二つある鏡台のうちの一つの前に座って長い美しい髪をとかし始めた。紀伊は落ち着かなそうに窓枠に手を滑らせていたが、やがて意を決したように近江に話しかけた。
「ねぇ、近江。」
「はい。なんでしょうか?」
ブラシを持つ手を止めた近江は紀伊を見上げた。
「その・・・・あの・・・・。」
紀伊はためらっていたが、不意に
「その・・・私の妹の尾張は、どんな人なのかなと思って・・・・。」
紀伊の眼に浮かんだ思いを近江は一瞬のうちに読み取ったらしい。
「讃岐から聞いたんですね。」
近江はと息を吐いた。
「あの子は尾張姉様のこと、嫌っていますから。」
「色々と・・・その、問題があるの?」
「尾張姉様は一言でいえば自分至上主義なんです。ほかの艦娘の方々と旧式と公然と呼びます。それに・・・・。」
「それに?」
近江はそれ以上話そうとせず、つらそうに黙ってしまった。
「いいから、教えてくれる?」
「あの・・・気を悪くされるかもしれませんけれど・・・・。」
近江はくっと口を一瞬ひきしばったがほっと息を吐いてぽつりと言った。
「姉様のこともよく言っていません。『プロトタイプ』って・・・・。」
紀伊ははっとなった。
「プロト・・・タイプ・・・・。」
「ご存じなかったのですか?」
近江は目を見開いたが、すぐにつづけた。
「知っておいた方がいいかもしれません。私もそれを知った時受け入れるのにかなりの時間がかかりました。でも、同じことを尾張姉様にいきなり言われるよりは――。」
紀伊はショックを受けていたが、黙ってうなずいて先を促した。
「私たちは艦娘のデータを基に人工的に開発されたニュータイプなんです。素体、つまりこの体自体の持ち主の記憶はすべて消去されたと聞いています・・・・。私たちは――。」
「生体・・・兵器・・・・。」
紀伊は絞り出すように言った。
生体兵器。知識としてそういうものがあることは知っていたが、それは次元が違う遠い存在と思っていた。だが、まさか自分がオリジナルではなく生体兵器だったとは――。
「・・・・・・。」
紀伊は自分の手を持ち上げた。
「だから、なのね・・・・。」
「えっ?」
「私の手はいつも冷たかったわ。夜の波よりも・・・・・。」
「違います、それは――。」
「血が通っていない。人間の姿をしていても中身は兵器。血の通わない兵器・・・・・。」
紀伊の眼は虚ろになっていた。
「姉様、お願いですから――!」
「私は・・・兵器・・・・・。」
パンと乾い
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