SIDE:A
第四話
[5/7]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
」
口からかまいたちの如く鋭い息を吐くと、数条の無形の刃が九喇嘛を襲う。
身を屈めたハルトは地面を這うように掛けた。
「はっ、その程度の風、妾には通用せぬぞ?」
鉄扇を一閃。生み出した風が真空の刃を相殺する。
九喇嘛の眼前に迫っていたハルトは地に手をつき、全身で伸び上がるようにして槍のような変則的な蹴りを繰り出した。
顔色一つ変えずにバックステップで回避した九喇嘛は宙に浮いて身動きが取れないハルトに向け、畳んだ扇子を振り下ろす。
「むんっ」
風切り音を発しながら振り下ろされた鉄扇はハルトの胸部に打ち付けられた。轟音とともに地面へしたたかに打ち付けられるハルト。あまりの威力に蜘蛛の巣状の亀裂が走り、地面が隆起した。
その華奢な姿からは想像もつかないほどの強力を見せ付けた九喇嘛であったが、何か違和感があるのか眉を顰めている。
「ん? 変わり身か」
ぼふんっと気の抜けた音とともに一瞬煙に包まれると、上着を被せられた丸太に変わっていた。
そして、背後から湧き上がる気配。振り向くと、正拳突きが今まさに突き刺さろうとしていた。
(ほぅ。人化しているとはいえ妾を相手に服に触れるとは……成長したな主よ)
突き出された拳は色打掛に触れていた。あと一歩踏み込めば、その拳に肉を打ち抜く感触を伝えることだろう。
「――じゃが、まだ甘い」
口角を持ち上げ不適な笑みを浮かべた九喇嘛は振り返ると同時に片手を拳に添えて受け流し、脇の下に鉄扇を通して投げた。
遠心力と相手自身の力、さらには梃子の原理も利用しているため、あっけなくハルトの体が浮き地面に叩きつけられた。
「うわっ」
「ほい。勝負あり、じゃな」
うつ伏せで叩きつけられたハルトの首筋に鉄扇が添えられて、模擬戦終了。
またもや敗戦となり悔しそうに顔を歪めたハルト。同年代の子供たちと比べて精神的に成熟しているハルトだが、時折このように子供のような反応を示すことがある。主のそんな姿が微笑ましく感じた九喇嘛はこの二年で自分も変わってきているのだと改めて実感した。
この小さな童の使い魔になってから二年。毎日、新たな発見があって退屈と無縁な日々を過ごせている。
人間に対して憎しみはあれど好意など持たなかった自分ではあるが、ハルトを通じて人間社会で過ごしていくうちに、悪くないと感じるようになってきた。それはやはり、主であるハルトを中心に九喇嘛という個人を見てくれるからだと分析する。
主であるハルトは九喇嘛を一人の女子として見ている節があり、人間の女子と同じように自然体で接してく
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ